別れと孤独
「良かった! はぐれちゃったので、心配していたのです!」
「……いえ……出てこられたのですね」
タルーノは高身長で細身の男だった。
頬がコケ、釣り上がった三白眼は爬虫類を想起させ、背負った剣の鞘もずいぶん細く、レイピアのような武器だと思われた。
「もちろん、タルーノさんたちがやられちゃうんじゃないかって心配したわけじゃないですよ! ただ、もう会えなかったらどうしようって。せっかくパーティに参加させて頂いたのに。ところでどうしてダンジョンの入り口に? 待っててくれたのですか? 他の方は?」
「ええ、待っていましたよ。あなたの生体反応はわかりますので。他のものは先に帰らせました」
「あ、ありがとうございます! お手数をおかけいたします!」
やたらと恐縮するサラサを見ていると、二人の力関係がよくわかる。
サラサの感謝に言葉を返すでもなく、タルーノの三白眼がこっちを見た。
「そちらの方は?」
「あ、彼はシロさんです。ダンジョンの奥で出会ったのですが、とってもすごい冒険者さんです! なんと、召喚戦士なのですよ! ここまで本当に助けていただきました」
「そんな! 僕の方こそサラサには本当に助けられて」
僕はカットダンジョンの実こそ振る舞ったものの、それ以外は特に何もしていない。明らかに助けられたのは僕だった。
「このダンジョンにはロードウルフがいたはずですが、出会わなかったのですか?」
「ええ! もちろん出会いましたとも。そこはシロさんのスーパースキルによってロードウルフの隙をつき、絶体絶命のピンチを逃れたということです。もしシロさんがいなければ、私は死んでいたでしょうね」
「……それはそれは」
驚いたように、タルーノは三白眼を見開いた。
「サラサさんは大変運の良い出会いをなさったのですね」
「はい! わたし実は、かなり運が良いのです! その、タルーノさんたちのパーティに入ることもできましたし。あ……でも、このダンジョンに潜ったのは私たちの連携を試す目的だったのに、あまり試すことはできませんでしたね」
「それはおいおいなんとかなるでしょう」
「それでなんですが、よろしければシロさんもお呼びしてみんなで食事をしませんか? ダンジョン脱出記念に——」
「ダメです」
タルーノの冷たい声がサラサを断じた。
「我々に今回の成果はありません。ただダンジョン内で散り散りになってしまっただけで、ダンジョン攻略に失敗したのです。それなのに記念などと浮かれてどうするのですか」
「——い、いえ。すみません、言葉選びを間違えました。そうではなく、ただ私はシロさんにお礼がしたくて。私はシロさんに命を救っていただいた恩が——」
「シロ様、ありがとうございました」
タルーノは僕に向かって頭を下げた。
「我がパーティメンバーがご迷惑をおかけしました」
「いやいや、僕はむしろ助けられたんですよ」
「ロードウルフと出会ってサラサさんが単身でここに戻ってこれるなど到底考えられません。シロ様はよほど優秀な冒険者かと存じます」
「まったくそんなことはないですが」
「しかし、弁えていただきたいものです」
「…………え?」
タルーノは明らかに敵意のある視線で僕を睨みつけた。
「別れた後も、我々にとっては重要な問題でした。サラサさんがこの困難にどのような対処するかを知ることこそが、我々パーティにとって必要だったのです。それを潰した自覚はおありですか?」
もしかするとサラサがダンジョン内で一人迷子になったことはテストだったのかもしれない。
僕と同じだ。
まぁ、何もできなかった僕と一緒にしては悪いけれど。
「すみません、気が利かずに。ただ、僕から言えることがあるとすれば、サラサさんは素晴らしい冒険者です」
「しかし、ロードウルフを倒せるほどではありません」
言うと、タルーノは懐から小袋を取り出し、僕に渡した。
ずっしりと重く、中に金属が入っていることがわかる。
「しかしながらサラサさんを守ってくださったことにはお礼をせねばなりません。受け取ってください」
「いや、そんなつもりじゃ」
「お願いいたします。我々に恥をかかせないで頂きたい」
厳しい視線と共に、タルーノは僕にその小袋を強く握らせた。
そこまで言われて突き返せるほどの度胸はない。この世界の慣習もよくわからないし、そもそも実際に何も持っていない僕にとって、それはありがたい申し出でもある。
押し付けられたそれを受け入れると、タルーノは続けた。
「我々のパーティは我々のやり方で高みを目指さねばなりません。どうかシロ様、これ以降サラサさんに関わることをおやめいただけますか?」
「そ、そんな! どうして!」
「黙りなさい」
僕よりも先に声を上げたサラサに対して、タルーノは叱りつける。
「シロ様は、召喚戦士なのでしょう。なぜ召喚されたかといえば、パーティが魔王討伐に選出されるためです。それはいずれ、我々とぶつかるということだ。シロ様はわかっていただけますね? 今後、手心が発生してはなりません」
「ま……まぁ」
「そういうわけです。行きますよ、サラサさん。ただし今回の件に関しては、本当にありがとうございました」
タルーノはサラサの腕をひっぱり、僕に背を向け歩き始めた。
名残惜しそうに、サラサは僕の方に視線を向ける。
しかし、僕は彼女に言葉をかけることができなかった。
僕は、この世界のことを知らない。




