表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「魔力ゴミ」と捨てられた鑑定士は冷徹皇帝と最強の契約を結ぶ  作者: 月雅


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

第10話 最高の契約


「……イリス様、鏡をご覧ください」


侍女の声で、私は顔を上げた。

鏡の中にいたのは、自分でも見知らぬ美女だった。


帝国の夜空を織り込んだような、深い青色のドレス。

髪には、ルカ君が開発した光る髪飾りが、星屑のように散りばめられている。

かつて王国のパーティで「地味で華がない」と笑われた娘の面影は、どこにもない。


「準備は整いましたね」


部屋に入ってきたのは、すっかり顔色の良くなったベルンハルト宰相だ。

今日の彼は、いつもの疲れ切った顔ではなく、父のような温かい笑みを浮かべている。


「行きましょう、補佐官。いや、今日の主役」


「主役だなんて。ただの戦勝記念の舞踏会でしょう?」


「ふふ、さあどうでしょうな」


宰相は意味ありげにウィンクをした。

その頭上に【作戦:サプライズ(進捗100%)】という文字が見えているけれど、私は気づかないふりをして彼のエスコートを受けた。


     ◇


大広間は、光と音の洪水だった。

シャンデリアの輝きが、磨き上げられた床に反射している。

集まった貴族や官僚たちの顔は、どれも明るい。

国が豊かになり、誰もが適性のある仕事で成果を出している証拠だ。


「あ、イリスお姉ちゃん!」


正装に身を包んだルカ君が駆け寄ってきた。

胸元には、帝国勲章が輝いている。


「見て、僕が作った自動演奏装置! 楽団がいなくても音楽が流れるんだ!」


「すごいわ、ルカ君。完璧な音色ね」


「へへっ、特許料も入るし、これでお腹いっぱいお肉が食べられるよ!」


彼の笑顔に、かつて路地裏で震えていた姿が重なる。

今の彼は、帝国最年少の魔導工学博士だ。


「イリス様、こっちの料理もすごいですよ!」


皿を山盛りにしたハンスも現れた。

財務部のエースとして多忙なはずだが、今はただの食いしん坊に戻っている。

彼らが幸せそうに笑っている。

それだけで、私がこの国に来た意味があったと思えた。


その時。

会場の照明が落ち、スポットライトが階段の上を照らした。


「皇帝陛下のお成り!」


静寂の中、ジークフリート様が現れた。

純白の礼装。

腰には儀礼用の剣。

その圧倒的な美貌とカリスマ性に、会場中の空気が震える。


彼は階段を降りると、真っ直ぐに私の元へ歩いてきた。

迷いなく。

他の誰にも目もくれず。


「……待たせたな」


目の前で止まった彼が、私に手を差し出す。

あの国境の森で、泥まみれだった私に差し出された手。

今は洗練された白い手袋に包まれているけれど、その奥にある熱は変わらない。


「踊ってくれるか、イリス」


「はい、喜んで」


私が手を重ねると、彼は力強く引き寄せた。

音楽が流れ出す。

私たちは光の渦の中へ滑り出した。


「綺麗だ」


踊りながら、彼が耳元で囁く。


「ドレスも、髪も。だが、一番美しいのは、その自信に満ちた瞳だ」


「あなたのおかげです。私に価値を与えてくれたのは、あなたですから」


「違うな。俺はただ、埃を払っただけだ。輝いたのは、お前自身の力だ」


ターンに合わせて、世界が回る。

彼の青い瞳に、私が映っている。

そこには、かつて見たような冷徹な計算も、国益を天秤にかける思考もない。


曲が終わると同時に、彼はその場に片膝をついた。

会場中が息を呑む。

皇帝が、臣下の前で跪くなど、前代未聞だ。


「イリス・ランチェスター」


彼は懐から、小さな箱を取り出した。

パカリと開くと、中には大粒のダイヤモンドが輝く指輪があった。

その石には、複雑な魔導回路が刻まれているのが『眼』で見えた。


【アイテム:誓いの指輪】

【効果:永続的な愛/精神の安定/全属性耐性】

【所有権:ジークフリート個人の私財より支出】


「新たな契約を提案したい」


彼は真剣な眼差しで、私を見上げた。


「期間は、俺の命が尽きるまで。業務内容は、俺の隣で共に生き、共に笑い、時に俺を叱ること」


それは、プロポーズだった。

この人らしい、不器用で、誠実な契約の申し込み。


「報酬は、俺の全てだ。帝国も、権力も、この心臓も。すべてお前に捧げる」


会場が静まり返る。

私の答えを待っている。


断る理由なんて、どこにもなかった。

私の『神眼』には見えている。

彼の頭上に浮かぶ、たった一つのシンプルな真実が。


【名前:ジークフリート】

【状態:世界で一番イリスを愛している】


視界が滲んだ。

かつて「ゴミ」と捨てられた私が、今、世界で一番価値のある宝物として求められている。


私は涙を拭い、彼の手を取った。

そして、最高の笑顔で答えた。


「……謹んで、お受けいたします」


その瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。

ルカ君が飛び跳ね、ハンスがハンカチで目を拭い、宰相が満足げに頷いている。


ジークフリート様は立ち上がると、私を抱きしめ、そして熱い口づけを落とした。

公衆の面前だろうと関係ない。

これは契約成立の証。

そして、二人の愛の誓いだから。


「愛している、イリス」


「私もです、ジークフリート様」


私の新しい人生。

それは、有能な補佐官として、そして愛される妻として。

彼と共に、この国でずっと続いていく。


最高の契約ハッピーエンドは、ここから始まるのだ。


(完)


最後までお読みいただきありがとうございます!


↓の★★★★★を押していただけると

すごく励みになります!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ