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第二話 前世の記憶

 「わたし」の名前は、アルノシア・ノクターン。ベルナルド子爵の三女で、魔力も、体も、家の中での力も弱かった。クリーム色のストレートの髪の毛に、厚い前髪、太い触角。薄緑の瞳。痩せ細った体に白い肌。形だけ見たら地雷系、けれども痩せすぎでパステルカラーと言う容姿は、かなり貧相で異質に見えたと思う。

 

 婚約は絶望的だと考えられていたけれど、父であるベルナルド子爵が8歳の時にある令息を連れてきた。その令息は、はっとさせられるような美貌の持ち主。私の3歳年上の彼の名は、カシアン・セルカーク。スタンホープ侯爵の私生児で、強い魔力を持っていた。それと同時に、彼は氷の呪いに冒されていた。「氷の呪い」。500年前に討伐された魔王の五つの欠片が魂に宿る者だけに発症する症状で、彼は史上四番目の「欠片持ち」だった。家族のお荷物となっていたわたしとの婚約は、嫌われ者同士都合が良かったのだろう、すぐに結ばれた。

 

 それから、11歳まで彼と子爵家の別邸で一緒に暮らした。彼は、自分で鎧を着るタイプだった。侯爵家での酷い扱いに耐えるため、誰にも心を開かずに生きてきたのだ。


 わたしも、子爵家であまり良い扱いを受けていなかった。気も弱くて、反抗さえ許されない。姉達や妹達のように美しい容姿は持っていないし、美しく着飾るための経費が与えられていなかった。兄達のように学びたいと望んでも、令嬢に教育は必要ないと一蹴される。長姉はわたしを小間使いとして使い、次姉はわたしを見もしなかったし、四女の妹はわたしを馬鹿にし、五女の妹は、公爵家のれっきとした次男と婚約して、わたしを見下していた。兄達はほとんど家に帰らず、帰ってもわたしと会うことは皆無だった。両親は、わたしの美しい姉妹たちを育てるのに必死で、一日中、わたしは質素な自分の部屋で過ごしていた。


 気も体も弱いわたしと、心を閉ざし、呪いに苦しむカシアン様。二人とも人が苦手なタイプだったけれども、少しずつ距離を縮めていき、10歳の時には一緒に毎日お茶をする仲にまでなった。

 

 しかし、嫌われ者の平和は長くは続かなかった。カシアン様の呪いが進行し、車椅子での生活となった頃。わたし達の仲が良いと聞いて「憎い義弟と婚約者との仲違い」を目論んでいたカシアン様の異母兄様によって、「カシアン様の療養」と言う名目でわたし達は引き離されてしまった。


 それから三年その別邸で暮らしたわたしも14になり、貴族学院に入学した。その頃にはカシアン様の存在も、呪いを受けていると言うことも、わたしという婚約者がいることも公表されていた。「欠片持ち」のカシアン様の婚約者で、下級貴族であるわたしは、学校に行けなくなるくらいの酷いいじめを受けた。しかし、寮母の説得によりもう一度学校へ向かうと、わたしの机は無くなっていた。幼稚な侯爵令嬢が教師に圧力をかけてわたしの机を無くさせたらしい。もちろん友達は居なくて一度は実家に帰ろうとも思った。しかし、カシアン様が次の年から学院に復帰すると聞いたので、わたしは学校での日々に耐えることにした。三年間を共に屋敷で過ごした令息の存在は、わたしの中で日に日に大きくなっていった。


 わたしが15になった冬。王宮で貴族全員参加必須の舞踏会が開かれた。久しぶりに会うカシアン様の呪いは、なぜか良くなっていた。自分の足で歩いていた。令嬢達の話に聞き耳を立てていると、スタンホープ侯爵夫人が亡くなり、カシアン様の侯爵家での待遇が少し良くなったらしい。足は、「善良な公爵令嬢」シエル・アスター殿下が世にも珍しい治癒魔法で治してくださったのだとか。しかし、その対価として婚約を求められ、カシアン様はそれを拒否したのだそう。私には婚約者がいますので、と。わたしのことなんて、カシアン様が助かるのなら婚約解消してくださっても良かったのに。そのせいで、カシアン様の侯爵家での待遇は前よりもっとひどくなり、筆頭公爵から彼は嫌われてしまった。

 

 わたしをエスコートしてくださったカシアン様は、前よりもっと美しくなっていた。しかし、密かに「分析魔法」を持つわたしには分かってしまった。カシアン様の服が「加護なし」であることを。「欠片持ち」は光魔法が込められた「加護付き」の物を身につけていないと命が尽きてしまう。


 わたしがそれをカシアン様に伝えると、カシアン様は言った。『僕はもともと長く生きることができない、しかし、この人生で大切な人に出会えた。アルノシア、貴方だ。貴方と家庭を築くことができたらどんなに良かったか。貴方との三年間は、僕の人生で一番大切な時間だった。僕には時間が残されていない。僕が逝ってしまったら、僕のことは忘れて、幸せになって。君を、あいしていた』カシアン様が微笑まれた初めての瞬間だった。わたしが願っていたのは、あなたの幸せで健康な人生だったのに。


 カシアン様は、ダンスの途中で倒れて、そのまま亡くなった。わたしは、葬儀にも参加させてもらえなかった。そもそも、行われなかった。


 わたしは、まだカシアン様のことを好んでいたカーリズル公爵令嬢によってカシアン様を毒殺したという冤罪を着せられ、子爵家から勘当された。わたしがいたせいで、カシアン様が自分と婚約できなかったのをまだ恨みに思っていたのだろう。


 わたしは、冷たい森を彷徨い続け、だんだん意識が遠のいていった。

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