第一話 お忍び
活気のある城下町を歩いていく。カーリズルの領民は皆明るくて良いわね。
「お嬢ちゃん!焼肉を食べて行かないか?」
あ、焼き肉屋のおじさん。
「いただきます!」
リシーの分も合わせてお代を払う。戸惑わせないように金貨では無く銅貨を払う。
「リシーの分」
「リーナ、ありがとう」
お忍びの時にはミドルネームのマリーナから取ってリーナと呼んでもらっている。さすがに『お嬢様』呼びされたら身分が分かってしまうわ。
二人で買い食いをしながら公園に向かう。手入れのされた緑の広がる美しい領立の公園。ベンチに座って人通りを見るのが楽しいから、お忍びをする時はいつもここへ来るの。今日は中央広場に面した日当たりの良いベンチを選んだ。
「リーナ、日焼けしちゃうよ?」
「リシーこそ」
「わたしは日焼け止めを塗っているから良いの」
「わ、わたしだって塗っているわよ」
二人で仲良くベンチに座る。リシーは読書を始めた。ちなみに、リシーは伯爵家のご令嬢で、現在13歳。14歳の貴族学院入学までうちで侍女見習いをしている。わたしはぼーっといつものように人通りを見ることにした。あら、桃色のパラソルを指して桃色のドレスで歩く、茶髪縦ロール高ツインというインパクト最高のご令嬢がいるわ。というか、あれってスタンホープ侯爵令嬢ではなくて!?スタンホープ公爵、セルカーク家はアスター家〈うち〉と筆頭貴族選抜戦の度に争っている家で、代々ライバル的存在。どちらもの広大な領地は東と西で離れているのに、なぜ?よく見ると、スタンホープ侯爵令嬢、ルナリア様は灰髪で驚くほど蒼い瞳のキリッとした青年を連れていた。彼の服はあまり質の良いものでは無く、髪の毛にも艶が無い。顔にも疲労が見て取れて、あまり良い扱いをされていないということが分かる。どなた、かしら?他家の事情に入り込むのはよろしく無いけれども、わたくしは聴覚魔法を発動させた。10メートル程離れたあちらの声が、よく聞こえる。
『カシアンなどという名を持って、私生児なんて、無礼極まり無いですわ!貴方はもう家には必要ないとお父様は判断されたようですから、今日限りで家との縁は切らせていただきますわ!放り出されたところで、生きてはいけないでしょうけれど、良い気味ですわ。お母様を苦しめた天罰が当たったのよ!家の宿敵であるカーリズル領なんて、最高の捨て場でしょう?それでは、ご機嫌よう』
憎々しげにそれだけ言うと、オーッホッホと高笑いしながら侯爵令嬢は去っていった。
……カシアン?侯爵の私生児?
……あ。頭の中に、大量の情報が流れ込んできた。倒れそうになる自分を必死に制御する。
思い出した。「わたし」の過去を……。




