五話 〜モズのクチバシ〜
アイリス自体はまだまだ未熟って感じで、エースとまでは言えない。
あらかた敵を倒して帰還しようとした瞬間。
「オキアミくん」が軽口を辞め、
真面目な口調で告げる。
「僚機が二機、落とされました。
さらに、高速でこちらに向かってくる敵影が一つ。」
静寂が訪れる間もなく、言葉が続けられる。
「……来ます。」
ーー今まで僚機が落とされることはなかった。
人材不足の中、武装のテストを任されるような部隊に配属されるのは、
少なからず実力がある人ばかりだったからーー
「敵機接近。照合中……
ネームド個体毒鵙です。」
今度はアラームを鳴らしながらそんなことを叫ぶ。
……うるさい。
神経を研ぎ澄ます。すると耳をつんざく音が聞こえてくる。
さっきまで共に戦っていた味方が、
爆炎と共に姿を消した。
カリス……A−2に乗っていた彼は反応もできず、亡くなった。
煙が晴れると、紫色で各部が尖った、
人型の機体が姿を表す。
右腕の青いブレードは水色とも言えるプラズマを放ち、
根本は赤熱化している。
‥‥まるで血飛沫を浴びたように、赤黒いオイルをかぶっている。
その量は一機分だけではない。飛沫が拡散するように飛ぶとしても少なくとも“二機分“。
私は今までに人型と交戦したことがなかった。
……あくまでここは「兵器の試験」がメインで、
前線を任せられるようなことはほとんど無いから。
こちらがロックオンするより早く、
敵機は攻撃を仕掛けてきた。
ブレードが私の機体の左脚を捉える。
狙いはおそらく体勢を崩すこと。
避けようとしたが、刃先が「狐火」の予備弾倉に触れ誘爆。
左脚が失われたばかりか腰回りのスラスターまで破損してしまった。
爆発が小規模だったのが幸いし、操縦系統、冷却機能などは問題ないようだ。
「左脚大破。左脚大破。撤退してください。」
けたたましくアラームを鳴らしながら、そんなことを叫ぶAIに、今度こそ堪忍袋の尾が切れた。
「うっさいっ! どうせ今逃げても、後ろから刺されるだけじゃない!」
そう叫びながら狐火を敵機に向け放つ。
弾丸は確かに敵を捉えていた。
しかし当たらないーー
今まで見たこともない軌道ーー
右側に避けるスピードが左に避けるより、早く見えた。
おそらく重心が右に偏っているのだろう。
弾丸を掻い潜られ、敵機との距離がほとんど0に近づく。
機体に衝撃が走る。 画面にノイズが走る。
胴体付近を蹴られたのだろう。
さっき片足を失った機体はバランスを崩し、制御まで失う。
頭が強く打ちつけられる。
視界が暗転する。
そのまま海に落ちていきーー
試験の時に爆発してもある程度対処できる人が採用されてます。
人型は前線での方向がほとんど。
試験が行われるのは、
人間の支配域の方が近いかな?ぐらいの区域。ちなみに非ネームド個体にも名前があり、ネームドは危険個体を人間がそのまま呼んでいる。
つまりは現実の指名手配みたいなもの。
<毒鵙>
登録名:DOKUMOZU
危険指定:A(ネームド級)
登録年数:15年
概要:ネームドの中では新参とも言える。
近接戦を中心とした戦術を好み、プラズマブレードでの斬撃や蹴りを多用する。
射撃兵装としては機関砲のみを積み、ミサイルの迎撃に用いられる。
16年前から、報告もなくロストする兵士が絶えず、毒鵙の仕業だと考えられている。
特徴:紫で尖った装甲に青いブレード




