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十六話 〜命の賭け〜



無線を受け取って数分後、救難信号が打ち出された。

それは煙を放出する爆弾、と言うより、昔の娯楽、"花火"に近い物。

白い雲に覆われた空のキャンパスで、それは一際目立つ。

急いで信号を出すほど状況が悪いのかも......

私はより一層、機体のスピードを上げた。


浜辺から上陸し少し進んだ森で戦いが繰り広げられている。

敵が人型6機、ヘリ型5機に対して、4機の味方のうち、2機はホバーユニットごと脚部を失い、もう1機は大破してしまっている。

大破した機体のコックピットはぐにゃりと曲がっている。

でも、パイロットはみんな無事みたい。

機体の影から漏れ出ている影を見て、私は少し安堵した。


[こちらA -1、援護に回ります。]

[こちらR -2、了解。]


R -2、唯一盾を持つその機体は、ヘリの弾丸から味方を守るのに精一杯になっている。

私だけで撃退しないと。


私はまず、ヘリ3機と人型4機が固まっている場所に弾丸をばら撒く。

最初は当たらないが、次第にその数は減っていく。


次に、奥のヘリ型を狙おうとした瞬間、近づいてくる人影。

それに気づいて離れようとスラスターを噴かした瞬間、ビームの刃が飛んでくる。 

そして、右腕の狐火は切断され、誘爆する。

次に狙われるのは左腕の火器。

煙の中から閃光が走った。

こちらがロックオンするまもなく破壊される。


両腕の武器を失った私は後ずさる。

まずったな。

こんな状態での近接戦闘は考えていなかった。 


とりあえず、目の前の機体をどうにかしないと。

左腕のブレードを展開して、敵に斬りつけようとした。

しかし、狙いは大きく外れ、当たったのは敵の左腕部だけーー


その時、目の前に突きつけられる銃口。

バランスを崩した影は、私の機体に向けてライフルを乱射する。

私は、その衝撃をまともに受けるしかなかった。


このまま死ぬのかな?

まだ、誰も守れていないのに。

まだ、私が誰かもわからないのに。



アラーム音がけたたましく鳴る。

……あれっ? 私、生きてる?

私は、思わず閉じていた目を開ける。

モニターは真っ暗になっている。

電源には問題ないみたいだから、カメラがやられた?

胴体前方のサブカメラに切り替える。

敵機がトリガーを何度も引き直すも弾丸が出ない。

そんな映像が荒く映っている。


「頭部破損、左腕部動力パイプ破損。おそらく、アエルカムラも使用できないものだと思われます。

アイリス、撤退を。」

……悪いけど、ヘリも撃ってきているし、ここから逃げれないと思う。

こちらは武装の一つもない。

機体を後ろに走らせる。

どこかに、無い!?

私の使える武器は!?


「こちらR -3、心許ないだろうが受け取れ!」

無線を受信し振り返ると、脚を失った機体のうちの一機が左肩につけていたバインダーから何かが射出している。

私はそれを失わなかった方の腕で受け取る。

「クサナギ印のショットガン<花火(さび)>だ。威力だけは保証する。」


機体のコネクタに花火をつなぐ。

情報が映し出される。

有効距離25m、最大射程89m、残弾数5発。


5発打ち尽くしたら、私は敵に殺される。

そこまでが私の命の最大値。

「私は賭けなら得意!」

冷や汗をかきながら言う。

「……アイリス!?」

私の叫びに、オキアミくんは初めてのツッコミを入れる。

大丈夫、そう、さっきだって生き残ったじゃない。


私はリロードに戸惑っている人型に向けて、散弾を叩き込む。

敵はその場に倒れ伏せた。

次に、先程からこちらを撃ってきているヘリ型2機に銃口を向ける。

散弾はプロペラに巻き込まれ、それは堕ちていく。


私は、残った一機にカメラを向けた。

60mほど離れた地点にいるそれは、他の人型を抱きしめていた。

私は思わず目を見開き、動きを止めていた。

容貌が美しかったからじゃない。

その様子があまりにも、人間的に見えてしまったからーー


その機体は仲間の骸を横たえた後、静かに立ち上がる。

少し傾いたその顔は、こちらを睨んでいるように見えた。


目の前の機体はブレードを展開する。

そして、ブースターを噴かす。

気づけば、距離は半分もない。

慌てて後退する。

私の右肩に閃光が掠る。

急いで、その光にショットガンを撃ち込む。


「はやっ……」

散弾が到達する前に離脱される。

残弾数2......


横にズレた敵は、旋回しようとしてこける。

そこに向けて放った弾丸は、カメラを破壊して敵の視界を減らすことしかできない。

......ホバーユニットの制御、また遅れた。

残弾数1......


どうしよう......

敵はこちらを迫ってくる。

次弾を外したら終わり。

私は冷や汗をかいていた。

確実に当てる方法を考える。

こちらはカメラが破壊され、ショットガンでは有効打を与えられるかどうか。

敵は、大雑把な動きだけど素早い。

私の腕は震えていた。

あの"毒鵙"と戦った時と同じぐらい、もしかしたらもっとかも。

......でも、わずかにでもズレるわけにはいけない。

でも、さっきと打って変わって震えは止まり、口角が上がっている。

そうだ、名案が浮かんできた。

「だったらまた、"賭け"を重ねるしかない!」

「アイリス!?」


敵はさっきより早く飛んできている。

だけど、私は動かない。

私の機体は、そのブレードの範囲に入る。

その刃がこちらを斬りつけようとした時。

「いまだ!」

私は機体を前に急加速させる。

砂埃が舞う。

敵の機体とぶつかり、私は機体で腕ごと刃を抑えた。

飛び散る火花が、機体に降りかかる前、花火をその敵の胴に押し付ける。

トリガーが引かれて、爆発音が響く。

散弾をまともに喰らった機体が倒れていく。

その場に残ったのは、私の機体だけ。

見上げると、空のキャンパスは青色一色に染まっていた。

花火(さび)

狐火の全身に当たるショットガン。

散弾を当てる唯一の特徴を持つが、

一発打つごとにリロードを要するため、

正式配備は行われず、

一部のエースや傭兵にのみ配られ、愛用されている。

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