十五話 〜急な抜打ちテスト〜
時間が、時間が足りない……
機体は海上を滑っていく。
空中とは全く違う感覚。
細かい機体制御はプログラムで行われているため、初めてスケートリンクに立った人間が転ぶみたいなことは起きない。
けれど、空を飛んでいるのとは違い、落ちる感覚がない。
そして、スラスターを噴射して無理矢理ブレーキをかけることもできない。
ホバーはあくまでも浮くだけ。
推進力は上半身のブースターに頼っているため、急停止したらバランスを崩してしまう。
にしても、空中と同じ感覚で進むと滑りすぎてしまうな。
この感覚、私は苦手かも。
最初は的当て。
海上での安定射撃が可能かをテストする。
的はヘリで空から吊るされている。
そして、戦場ではあり得ない速さで、つまりはゆっくりと動いている。
でも、その的はいつも戦っている敵より小さい気がする。
うん、まぁこれぐらい正確じゃないとデータとして意味ないってことだと思っとこ。
二丁の狐火を手に取り、トリガーを解放する。
「アイリス、外してますよ」
「わかってる。」
当たらない。
弾丸はどれも、的の端を掠めて消えていく。
最終的なスコアは10点中3点。
決していいと言えるものではない。
それにしても、ほとんど動いていないて的でこれか……
「……これは補正が必要そうですね。」
今日もまた、オキアミくんに煽られる。
次のテストに移行しようとしたその瞬間、無線がはいる。
「9時方向から敵AI勢力接近。数は4機。」
なるほど、迎撃しに向かえと。
敵はヘリ型3機に人型1機。
人型に関してはミサイルポッドを積んだ重装備仕様。
でも、逆に銃火器を積んでいないように見える。
それに、海上2mぐらいを飛んでいるところを見ると、無理矢理飛んでいるみたいだ。
海上での戦闘には向いてないように思うけど......
敵機をロックした私は狐火を構え、発射する。
しかし、確実に敵を捉えていたはずのその弾丸は、ことごとく外れる。
さっきの人型から発射されたミサイルは、私の左肩に命中した。
角度が良かったのか、装甲に大したダメージはなかったけど、まずい。
こっちの攻撃は当たらないのに、あっちは当ててくる。
「アイリス、当たらないのならばら撒けばいいのでは。戦いは弾幕の量で決まるんですよ。」
「だから、その"弾幕の量"で負けて......」
......確かにそうかもしれない。
狙いがつかないなら、敵の行動の2歩先に弾丸を置けばいい。
「敵の行動を予測して!」
「わかりました。」
オキアミくんが少し間をあけて言う。
「当ててくださいね。」
「了解!」
まずは威嚇射撃をする。
そして避けた機体のルートが予測される。
「右に避けたヘリ型、そのまま右方向に飛んでいくと思われます。」
その"右"のちょっと先に向けて射撃。
2機の飛行物体は、弾丸の雨に突っ込んでいった。
「残るヘリ型一機、突っ込んできます。」
突っ込んでくるなら、そのルートに弾丸をばら撒けばいつかは当たる。
「人型が機体を反転させました。撤退するつもりでしょう。」
「させるか!」
全力でブースターを噴かし、敵機に近づいていく。
敵機がこちらを向いた時には、真後ろにつけた。
相手の胴に、狐火の銃口をくっつける。
戦場に響くのはーーただ撃ち抜かれる音だけ。
その場には、一瞬の静寂が訪れた。
敵を殲滅して、それを悼む暇もなく、無線が入ってくる。
「こちらR小隊。味方一機大破、救援求む。繰り返すこちら...」
なんとなく、嫌な予感がする。
報告がないからネームドではないと思う。
だったら、物量的な問題か?
とにかく向かわないと。
「アイリス、行きましょう。」
「ええ。」
ユニットの発するファンの回転音が、いっそう聞こえてくる気がした。
ミサイルポッド
……いわゆる小型ミサイルをばら撒くための装置。
この世界では、ミサイルをリロードできるけど、3〜4回ぐらいしかできない。
というか、できること自体が現実的に見ればすごいことではある。




