十三話〜誰かの木漏れ日〜
ある一般整備兵のお話。
俺の名前はドロス・ベイリー、27歳。
この“戦艦レグルス“の整備兵にして、階級は“カルイ“。
“テレムコニア“関係を担当している。
ぶっちゃけこの仕事は敵の襲撃も少なくて、給料もいい。
だって、俺だけで家族を養えるんだから。
ただ、この仕事に不満がないわけではない。
その原因は艦長の娘“アイリス“。
彼女が出撃すると彼女の機体はいつもボロボロになって帰ってくるんだ。
もちろん、敵ネームドとの遭遇とか、事情もわかるけどそれにしてもだ。
左脚の破損から始まり、マイクの破壊、四肢の損壊、今度は機体が焼かれて帰ってきた。
向こうで多少の補給を受けてきたって言ったって、流石に限度はある。
それに艦長も親バカだから、そんな娘に甘い。
もう少し整備班にも優しくしてほしいんだよなぁ……
こっちを過労死させる気か?
死神なのかあいつ?
「よう、そっちの方はどうだ?」
同僚のナイルスが昼食を持ってきて言った。
彼はR小隊の整備班のなのだが、向こうは今日も暇してそうだ。
「ん、ありがとうな。」
昼食を受け取る。
ほのかに、カレーのいい匂いが充満した。
「いいよなぁ。今日も暇してて。」
「そんなこともないぜ?今度新型が届くんだとよ。
その整備方法とか、覚えないといけないからな。」
「結局楽しそうじゃねえか、おい。
こっちはずっと同じ機体の整備だぞ?」
「まぁ……ずっと同じ機体の担当というのも幸運じゃね?」
「……どういうこと?」
「この前も、A小隊はほぼ壊滅。お前のとこのアイリス以外はな。
つまるところは、自分の整備した機体が亡くならないのは嬉しいもんだろ?」
「まぁ、それもそうだな……」
そういえばこの前、こいつが整備していた機体が帰ってこなかった。
機体が水没して、操縦系が壊れた。
その機体は旧式、何十分も水に浸かることは想定していなかった。
その時、ナイルスも泣いていたっけ。
どこかで旧式でも海から逃れたやつがいたなぁ……
……ぶっちゃけ、アイリスのやつはクレイジーなんだよ。
海面で脚をパージして、無理やり跳ぶなんて、教本にも書かれてないはずだぞ?
音爆弾で自爆も、下手したら教本に乗るだろ。
……実在した“悪い例“としてな。
さて、ご飯も食べ終わったし、作業に戻るか。
あいつの明日の出撃に向けて、急ピッチで進めないとな。
「じゃあ、俺は整備に戻るよ。」
そう言った。
「おっ、じゃあ俺も手伝おうかな。」
……予想外の反応が返ってきた。
「は? 基本、持ち場を離れたらダメだろ。」
「大丈夫だって、仕事なんかあらかた終わって、“持ち場“はないからな。」
「やっぱ暇してるじゃん。」
「じゃあ、手伝わなくていいな?」
「お願いします。」
「即答かい。」
ナイルスにからかわれる。
くそっ、また負けた………
この前、面倒なマイク交換をする時もこんな話をしていた気がする。
まあ、“いつか“は勝てるだろう。
……そうして、鉄の匂いのする“持ち場“に戻るのだった。
ナイルス
「……ぶっちゃけ、誰よりも仕事が丁寧で完璧なんだよな、あいつ……
多分あいつの腕に救われてるよ、あのパイロットも……」
カルイは現実だと監督レベル。
だから、“整備班の中“では偉い方。




