琥珀宮での生活
デュオ・アムーレの帝城は正面に政務をするための本城、右翼に金獅子が住まう本宮と皇太子が住まう離宮・琥珀宮がある。
左翼はそれ以外の皇族が住んでいる。内宮の采配を任されている王妃アマンダとその息子である第ニ王子クロノス。そして前王妃の娘であり、外交を一任されている第一王女マリアベルだ。
レオノールが暮らしているのは当然アークバルトと同じ琥珀宮となる。
琥珀宮は本宮とは離れたところにある緑あふれる宮であり、どちらかと言えば兵舎のほうが近いだろうか。近いとは言っても音が聞こえるほどではない。
なにせ帝城の右翼は魔の森に隣接しており、広さだけで言えばウェセント大陸でも随一……いや、危険さで言っても大陸屈指と言えるだろう。
ただ金獅子が縄張りとしているために決して魔物は帝城には近付いて来ないが、他の場所は別だ。道に迷って森へ入れば確実に魔物の餌となるだろう。
そのために、帝城右翼から更に森へと進んだ場所に兵舎があるのだ。森に入って魔物と戦えば戦闘訓練も出来て一石二鳥、というのが代々の金獅子の言葉である。
レオノールが城に来て早半年、子育てに奮闘中のアークバルトには悩みがあった。
まずレオノールの大きさが変わらない点だ。身長は1ミリも伸びておらず、全く成長していない。
ただアークバルトも2歳の時に成体になったので、レオノールも一気に成長する可能性がある。もう暫くは様子を見るつもりだ。
アークバルトが最も気になっていることは、レオノールが全く口を開かない点である。
相変わらず言葉も喋らないし笑わない。食事を口から食べさせようとしたが、食べ物を口元に近づけても根を伸ばして吸収するだけだ。
寝ている姿を1晩中観察したこともあったが、ヨダレを垂らすこともモゴモゴと口を開けることもなかった。最近ではあの小さな口は飾りで、上と下の唇がくっついているのではないかと疑っているほどだ。
なにせアークバルトが突ついてもしっかり閉ざされ、未だに歯が生えているかどうかも確認できていないのだ。
今日もレオノールを抱き上げてアークバルトが日課になっている散歩をしていると、またもやギルバートと鉢合わせた。
「奇遇だな、アークバルト。レオノール、じぃじだよ〜」
「何が奇遇だな、だ。ここは俺の宮だぞ」
明らかな不法侵入にアークバルトがジト目を向ければ、ギルバートは負けじと言い返す。
「そなたはレオノールを琥珀宮から出さないではないか。ならば儂が来るしかあるまい」
「ここが一番安全だ。文句は聞かねぇ」
2人が言い合いをするのはいつものことなので、レオノールも気にする様子はなく蔓をギルバートに巻きつけて挨拶をする。
「ほら見ろ。レオノールも歓迎しているではないか」
そう言ってギルバートが両腕を差し出せば、レオノールもバンザイをして抱っこをせがむ。この半年の成果と言えよう。
レオノールを抱えてほっぺにチュッチュとキスをしているギルバートにイラッとしたアークバルトは、小さな体を奪い返すと額と額をくっつける。
「レオノールはパパが1番好きだよな?」
最近アークバルトは自分の事をパパと呼んでいたりする。アークバルトと言う名は幼児には言いにくいと気付いたためだ。
パパとじぃじとにぃに、一体誰が先にその名を呼ばれるのか、熾烈な争いが繰り広げられていた。
ちなみに本来アクアネル公爵領にいるはずのサイフィードは、現在デュオ・アムーレ学園に通っていたりする。今まで爵位の継承やらで休学していたのを返上し、4年遅れで入学を果たしたのだ。そう、つまりサイフィードも3年はネールに居座る気満々なのだ。
「今日はアークバルトにも用があってきたのだ。一月後の建国祭に出席せよ」
「はぁ?何で俺が。嫌だね」
「そなたはここ数年1度も顔を見せてないではないか。そろそろ貴族連中に顔でも見せておけ」
「バレンシアガの核が盗まれたんだ。仕方ねぇだろ」
「ほぉー。では2ヶ月前の儂の生誕祭はどう説明する?」
レオノールと一緒にいたいがためにサボっただけ、という事実を素直に口にする訳にはいかず、アークバルトは最もらしい言い訳を口にする。
「レオノールを1人にするのは不安だろ。何かあってからじゃ遅せぇ」
「儂とそなたが揃っておって何が起こるいうのだ。不安なら眷属で周りを固めておけばよい」
ムッツリと黙り込んだアークバルトにここぞとばかりにギルバートが追撃をかける。
「そもそも、そなたが眷属を持ってないのが1番の原因であろう。レオノールもいるのだ。いい加減自分の眷属を作れ。当てがないなら儂の眷属をそなたに譲ってもよい」
眷属とは主に絶対服従で裏切ることはない。金獅子の眷属になった瞬間から寿命から解き放たれ、主が死ねば眷属も死ぬ、そういう関係だ。
アークバルトが眷属を作らないのは人間が嫌いなため。眷属は全て元人間だからだ。
「チッ、分かったよ。父上のを何体か見繕ってくれ」
眷属がいれば遠く離れていても会話が出来きる。レオノールの様子を逐一報告させるには自分の眷属を持つしかない。
これもレオノールのため、とアークバルトは諦めてため息をついた。




