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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
友との出会い
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食事会

 お互いが親しくなったところで、食事会が始まる。用意されたのは生肉とロイ用にミディアムレアなステーキとパン、スープだ。


「これ たべる?」


 衝撃を受けて呆然とレオノールは生肉を見る。その肉からは少量の魔力しか感じられず、全く美味しそうではなかった。


「何か問題でもあるのか?新鮮な生肉だぞ」


 席について、たんまりとステーキを皿に盛ったロイは不思議そうに生肉へと目を向ける。シルヴァもいつも食べているからなのか何も疑問に思ってなさそうだ。 


「こんな弱ぇ魔物の肉なんざ食えるかよ。下げろ」


 すぐさまジルが肉を下げ、代わりによく食べている肉を置く。


「Aランクの魔物の肉になります」


「Aだと!?」


「えす じゃない」


 国と冒険者の強者が共同で事に当たらなければ倒せないような魔物の肉に、ロイは驚愕の声を上げるが、レオノールはSランクでない事に不満の声を出す。

 初めての友達との食事会なのだ。どうせなら最高級の肉がいい。


「あまり強い肉だとシルヴァ様が魔力酔いを起こしてはいけませんので」


 笑顔でジルに言われて、レオノールも納得する。魔力に酔っぱらってアークバルトをグルグル巻きにしたことを思い出したからだ。


「わたし しんぞうが いい」


「畏まりました」


 サッと巨大な心臓が皿に盛られて、アークバルトに涎掛けを掛けられる。


「何を普通に食事を始めようとしているのだ。その腕輪の中はどうなっている」


 ロイの目は、次々と生肉を取り出していく腕輪に釘付けだ。


「デュオ・アムーレで狩って来たヤツだ。何も問題ねぇだろ」


「確か外遊に出て4ヶ月は経っている筈だろう?どれだけ高位魔物がいるのだ」


「おいおい、飛空艇の魔核は全部デュオ・アムーレ産なのを忘れたのか?あれは全部俺たちが食事用に狩った魔物の残りだ」


「Sランクの魔核が食事の残り……」


 現実を受け入れられないロイが頭を抱えた。更に信じられないのはジルの着けている腕輪だ。


「その従者が着けているのは時間停止付きの腕輪ではないのか?」


「時間停止が付いてねぇと腐るだろうが」


 何を当然な事を言っている、と言わんばかりのアークバルトの態度だが世界の常識は違う。

 普通は収納の腕輪に時間停止機能など付いていない。時間停止機能が付いているのはデュオ・アムーレの皇家が管理している物のみ。素材も作り方も不明で、天文学的な価格で取引されている代物だ。王族であろうが中々手に入る物ではない。

 ガザールでも国宝に指定されており、使用できるのは代々皇帝のみ。それをただの従者が身に着けているのだ。


「デュオ・アムーレは常識がおかしい事をもっと自覚すべきだな」


「うでわ めずらしい?」


「そうでもねぇよ。容量が小せぇやつは冒険者にも販売している。魔物は鮮度が命だからな」


「その常識がおかしいというのだ!そもそも販売しているのはデュオ・アムーレ在住のAランク以上の冒険者だけだろう!?」


「ああ。ついでに言えば、魔力識別機能付きで他の奴らは使えねぇ。冒険者が死ねば国に返還される」


 どうにか使えないか、と試す者は後を絶たないが、魔力識別機能とは名ばかりで、本当は金獅子との契約によって成り立っている。神との契約を書き換えれるような人間はいないので、国外に流れることもないのだ。


「ごはん まだ?」


 大人2人の会話に飽きたレオノールの目は、魔物の心臓に釘付けだ。行儀の良いシルヴァも、待てをされている犬のような目で、目の前にある肉を見ている。


「悪かったな。食おうぜ」


 ロイとシルヴァが金獅子に祈りを捧げ……微妙な顔をする。


「何というか、目の前にいると有難みが失せるな」


「知るかよ。テメェらが勝手に祈ってんだろうが」


「それはそうなんだが、金獅子は豊穣の象徴でもあるだろう?習慣みたいなものだ」


「俺たちは生命と活性を司ってんだ。豊穣はおまけだ」


 どの国も喉から手が出るほど望む豊穣をおまけと言い切るアークバルトに、これが神と人間の価値観の違いか、とロイは死んだ魚のような目でナイフとフォークを握る。その横ではシルヴァがようやく話が終わったと嬉しそうな顔で肉を切り分けていた。

 レオノールはといえば……いつもの様にパッカリ口を開けて肉が来るのを待っている。それに気付いたアークバルトが心臓を食い千切り、柔らかくしてからレオノールの口へと移した。


「は?」

「え?」


 ロイはカトラリーを取り落とし、シルヴァのフォークから肉がボトリと落ちた。

 レオノールの口から溢れた血をアークバルトがペロペロと舐め取り、再び心臓へと齧り付く。本当に狩りたてなのか、心臓から溢れる血がアークバルトの手と顔を汚すが、気にする様子もなくせっせっとレオノールに肉を運んでいる。その際に、魔力酔いしないように、肉に残っている魔力を調節するのも忘れない。

 

「おにく おいしい。たべる」


 2人の手が止まっているのを不思議に思って、レオノールが催促したその時……


「赤ちゃんみたい」


 ポツリと呟かれたシルヴァの声を拾った。


「わたし あかちゃん ちがう」


「ご、ごめん。その、あの、悪気があったわけじゃなくて、鳥の赤ちゃんに似てたから」


 何度も謝ってくるシルヴァを制し、レオノールは宣言する。


「わたし ひとりで たべる」


「ダメだ!」 


 当然ながら反対するアークバルトだが、レオノールの意思も固い。同い年の友人に赤ちゃんと言われる訳にはいかないのだ。


「分かった。一口だけだ。それで様子を見る」


 悩んだ末にアークバルトが出したのは妥協案だ。ジルが小さな肉切れを皿に入れ、フォークをレオノールに渡す。いざ行かん、と肉にフォークを突き刺してレオノールはパクリとそれを食べた。

 もぐもぐ口を動かすが、特に変わったことはない。でも何故か食べたらいけない様な気がして、レオノールはちょっと考えた後、それでも肉を飲み込んだ。

 急に込み上げてくる吐き気と不快感に、レオノールは苦しくて咳き込む。何度も咳き込み、息がうまくできない。


「レオノール!!」


 急にアークバルトが手を口に突っ込んできて、レオノールは肉を吐き出した。すると先程苦しかったのが嘘のように引いていく。目に溜まった涙がこぼれ落ち、アークバルトが優しく背をなでる。


「成程な。レオノールは自力で肉を自分の力に変換出来ねぇんだ」


 だから頑なに自分で食べようとはしなかったのだ。おそらく本能で、食べれない事を分かっていたのだろう。


「ご、ごめん。ぼ、僕のせいだ。ご、ごめんね」


 泣きながら謝るシルヴァに、レオノールはビックリする。


「わたしの こうどう わたしが きめる。しるゔぁのせい ちがう」


 確かに始まりはシルヴァの言葉だったが、食べるのを決めたのはレオノールだ。責任は自分で負う。


「しるゔぁ もっと たべる」


 べそべそと泣くシルヴァに、レオノールはフォークに肉を刺して持って行く。もちろん地面には下ろしてもらえないので、テーブルの上を歩いて。

 しゃくり上げる度に肉を突っ込んでいるので、シルヴァの口はもう肉で一杯だ。


「もう、ぐ、たびぇむぐ」


 何か言っているがレオノールは気にしない。次に口が開く瞬間を虎視眈々と狙っている。それが分かったのか、シルヴァも口を手で覆って阻止する構えだ。


「もう勘弁してやってくれ」


 苦笑しながらロイがシルヴァをヒョイっと持ち上げれば、レオノールの体も浮く。アークバルトだ。


「わたし しるゔぁに たべさせる。わたし おとな」


「モグモグ、ゴクン。これは無理やり突っ込んだって言うんだよ!」 


 プリプリ怒り出したシルヴァに、レオノールは可笑しくなってクスクス笑う。その姿を見たシルヴァも目尻が下がり、やがて「あはは」と笑い始めた。

 その後、お腹をパッツンパッツンにした2人は、仲良く並んで庭に横になった。 


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