初めての友達
レオノールはシルヴァをひと目見て好きになった。モフモフな姿もさることながら、その魂の輝きが好ましい。
シルヴァともっと仲良くなるために、レオノールは食事に誘ってみた。シルヴァが生肉食であることを聞いたためだ。
「きょうは くろいふく する」
血が溢れても気にならない黒い服をチョイスし、ゴスロリ風に決めてもらう。シュッとした上着にボリュームのあるスカート。カボチャパンツも今日は黒色だ。
「ああ!レオノール様、今日も何てお可愛らしい!」
「ぱぱ どこ?」
ここでようやくレオノールは、いつもへばり付いて離れないアークバルトが居ないことには気付いた。
「アークバルト様も準備があるとかで、隣の部屋でお待ちです」
「じゅんび?」
一体何の準備だろうと、レオノールはフワフワの絨毯を歩きながら扉の前に立つ。そうすれば心得たかのように扉が開いた。出来る従者、ジルである。
部屋に入ったレオノールはアークバルトの姿を見た瞬間、走り出していた。
「ぱぱ みみある!」
「尻尾もあるぞ」
アークバルトは獣人の姿になっていた。丸い耳はロイと一緒だが、尻尾は毛先だけがフワフワな獅子の尾だ。髪の毛も鬣と合わさり、いつもよりボリュームがある。
興奮したレオノールは、まず耳を両手でクイクイ引っ張り、次いで尻尾を掴むとフワフワな先っぽを口にパクリと咥える。鬣に顔を埋めれば至福の時間が訪れた。
「わたし いつ しっぽとみみ はえる?」
満足したレオノールが尻尾を離してそう問えば、アークバルトは声を出して笑った。
「レオノールには無理かもしれねぇな」
不満顔のレオノールにアークバルトは再び尻尾を握らせる。
「お前には俺の尻尾があるだろ?レオノール専用だ」
「わたしの しっぽ」
ギュッとアークバルトの尻尾を握り、レオノールはパッと笑う。
「ほかのひと さわるの メッよ」
「当然だろ」
その答えに、レオノールは満足して頷いた。
「その姿はどうしたのだ」
顔を合わせた瞬間、そう問いただしたのはロイだ。まあ、一晩で耳と尻尾が生えれば当然だろう。
「レオノールのために生やしたに決まってんだろ」
何てことないように言っているが、嫉妬にかられたアークバルトが一晩中努力した結果である。どうにも細かい調整が難しく、最初は尻尾が生えてこなかったり、獅子頭になったりした。獅子頭は最初はありかも、と思っていたが、キスがしにくいと気付いてから却下された。
「す、すごい」
これでセクハラ被害を免れる、とシルヴァが安堵するのも束の間、レオノールが抱っこをねだる。モフモフは常に別腹なのだ。
抱っこされたレオノールはまず、シルヴァの匂いをクンクンと嗅ぎ、次いで首元のモフモフへ顔を埋める。蔓が素早くボタンを2つ外していく様子は、最早熟練の技のようだ。
しばらく幸福に埋もれていたレオノールは、ふとこの前渡し忘れたものを思い出した。
「これ あげる」
「た、種?」
「そういえば、私ももらったな。鉢に植えて執務室に置いてあるが、まだ芽は出てないな」
「うえたら メッなの。これ おまもり。ちゃんと みにつける」
レオノールはロイに注意する。これにはレオノールの力が込められているのだ。破滅石のお守りバージョンだと言えば、その凄さが分かるだろうか。
「そうだったのか。誰か種を取ってきてくれ」
「はっ!」
すぐさま騎士が走って行き、種を持って来る。恭しく差し出された種を手に、ロイは眉間にシワを寄せた。
「大きいな」
レオノールの拳大の大きさにロイは悩む。ポケットに入れても膨らみが分かるし、巾着に入れて首から下げるのは不格好だ。一国の王として身だしなみは大切なのである。
「ちいさく する?」
「そんな事も出来るのか?」
「できる」
レオノールが力を込めると、種から細い蔓が出てきてロイの手首に巻き付いた。小さな葉が太陽の光に反射する様子は、まるで繊細な宝石細工のようにも見える。
「これは……凄いな」
あっという間に腕輪になった種にロイは感嘆の声を上げる。これなら服で隠せるので、いつでも身に着けていられる。そう、国王は公式の場で半袖を着ないのだ。
「しるゔぁも かえる?」
「いいの!?」
嬉しそうに目を輝かすシルヴァに、レオノールは同じように腕輪を作った。
「レオノール……俺にはないのか?」
どこか暗い雰囲気のアークバルトに周りが一斉に距離を取る。明らかにヤバい気配が漂っている。
「ぱぱには わたし いる。ひつよう ない」
「そうか!そうだな!」
レオノールの手の上で、コロッコロに転がされているアークバルトにロイは微妙な視線を向けるが、平和なのはいい事だと思い直した。
「礼を言うぞ。大切にさせてもらう」
「ぼ、僕も!その、ありがとう」
「ふたり とくべつ。ともだち」
レオノールはロイに種をあげてから、"特別"の意味を考えていた。家族とは違う温かな存在だ。そうして行き着いた先が"友達"と言う言葉だ。
「とも、だち……」
ポロポロと涙を流すシルヴァに顔を近付けて、レオノールはペロペロと涙を舐め取る。
「わたしたち ともだち」
美しい友情を育もうとしている少年たちのその裏で、般若の顔をしたアークバルトがいた。
ロイ「頼むから落ち着いてくれ!」




