レオノール大暴走
その日、レオノールは朝から浮かれたいた。今日はフワフワ、ではなくロイの3男であるシルヴァを紹介してもらう日だからだ。
朝からレオノールは色んなタイプのワンピース――他の服は持っていない――を引っ張り出し、ああでもない、こうでもない、と鏡の前で睨めっこしていた。デートを前にした女の子の様に。
「ロイの息子に会うだけだ。そんなに気を使うことねぇよ」
何が何でも止めさせたいアークバルトの大人気ない言葉にも、レオノールは気にすることなく2つのワンピースを持ち上げた。
「どっち にあう?」
「…………くっ!右だ」
敗北したアークバルトが指したのは淡いグリーンのフリルがついたワンピースだ。セットでリボンの付いた帽子もある。レオノールは1つ頷くと、バーニャにワンピースを渡した。
「これにする」
「畏まりました。世界一可愛くしてみせます!」
テンションの高いバーニャにアークバルトは眷属通信で「程々にしておけ」と伝えるが、本当に伝わったのかは定かではない。
レオノールはあれよあれよと言う間にお風呂に入れられ、ピカピカに磨き上げられた。髪を結われるのが苦手なレオノールは、いつもサラサラのストレートヘアだ。それでも今日は特別時間をかけて梳いていく。
「これで完成です!」
最後にリップを塗られて鏡を見れば、ザ・深窓の令嬢なレオノールがいた。
「ようい できた」
レオノールに求められるまま抱っこをしたアークバルトは、嫌々ながら待ち合わせの場所へ向かうのだった。
「あー、シルヴァ、こちらがレオノール・アルタ・アクアネル公子だ」
虚空を見つめながらロイがそう紹介すれば、すかさず疑問の声が上がる。
「え、女の子……?それに5歳だって、父上?」
見事なまでに性別を詐称(?)した2歳児未満な体型のレオノールの姿に、ロイは言葉もでない。今までも確かにワンピースだったが、フリルは付いていなかった。あとリボンの付いた帽子も。
息子が恋に落ちたらどうしよう、とヤキモキしながら2人を見守るロイは、ちょっと紹介してもらった事を後悔していた。
「わたし れおのーる。もうすぐ ろくさい」
「え!あ、ええと、僕はシルヴァ。ろ、6歳です」
オドオドと答えるシルヴァの姿は王族らしくなく、何かに怯えているかの様だ。そんな不自然な様子を気にすることなく、レオノールはクワッと大きな目を更に大きく見開いた。
丸い耳にフワフワの尻尾、ピンクの肉球に顔は虎のそれ。シルヴァの姿は二本足歩行の虎そのものだった。
「しっぽ さわって いい?」
「え、ええと」
意志が弱いのかチラチラとロイの方を窺っている。
「シルヴァが思うようにしなさい」
断っても不機嫌になる様な子ではない、と知っているロイは笑顔でそう答えた。あと、後ろからの無言の圧力もあった。
「ごめんね。その、尻尾は触られたくないんだ」
「わかった。ほかのとこ さわる」
皆が疑問に思うより先に、レシルヴァへ飛び掛かったレオノールは服を脱がせようと奮闘し、それを阻止しようとするシルヴァは必死の形相だ。
「私の息子が襲われている!」
「俺のレオノールが襲われている!」
同時に叫んだロイとアークバルトが顔を見合わせる。
「どう見てもシルヴァが襲われているだろう」
「何言ってやがる。レオノールがそんな事するわけねぇだろ」
言い合う親たちを他所に、戦いは第2ラウンドへと突入する。服を脱がそうとしていたレオノールが一転、服の中に入ろうとしてきたのだ。完全な変態行動である。
「うわああ!ダメだって!」
ドンッと突き飛ばされたレオノールが、ゴーン!ともの凄い音を立てて木にぶつかり、やがて限界を迎えた木がバキバキと音を立てて倒れた。
それを見たシルヴァはただ震えていた。己の手を呆然と見て、喘ぐように言葉を紡ぐ。
「あ、あ、ぼく……」
動揺するシルヴァの前でピョンっと飛び起きたレオノールは、蔦を伸ばして木を持ち上げると元通りにくっつけた。
「しょうこ いんめつ」
「え?え?髪が……」
半ばから蔓へと変わった髪を見て、シルヴァの目が丸くなった。ニッコリと微笑んだレオノールに見惚れるシルヴァへ伸ばされた蔓が、シャツのボタンを1つずつ外していく。
「ふわふわ!」
その後はもう地獄のような光景だった。シルヴァのフワフワの毛にダイブしたレオノールが、邪魔されまいと自分たちを蔓でグルグル巻きにし、それを見たアークバルトが発狂した。
「レオノール!俺のレオノールが!!」
「落ち着け!子ども同士だ!」
ロイが必死の形相でアークバルトを羽交い締めにするが、それは何の戒めにもならなかった。ロイを腰に引っ付けながらレオノールの元へ飛んでいったアークバルトがシルヴァを……どうこうする事は出来なかった。レオノールの蔓がそれを許さない。
「レオノール?パパだぞー?」
「あっち いって」
グリグリとシルヴァの毛を堪能しながら、レオノールは素気なく告げる。
「あの、僕もそろそろ解放してほしいんだけど」
「きょうは ここでねる」
その後、何とか説得されたレオノールがシルヴァを解放するまで、しばしの時を要したのだった。




