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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
金眼回収の旅
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報酬

 アークバルトはイライラの頂点に達していた。


 レオノールが眠ってから1ヶ月。

 その間1度もレオノールの声を聞いていないし、キスもしてもらっていない。アークバルトを見てパッと笑うこともなければ、あの可愛らしいクリクリの目が自分を捉えることもない。ハッキリ言ってレオノール成分が圧倒的に不足していた。

 それに加えギルバートからはちゃんと外交を行え、というお小言をもらい、ヒュドラ討伐やらの報酬の話し合いも行われることとなった。ジェンヌはさぞ安心している事だろう。


 そういう訳で、現在ルピナス連邦国に所属している5カ国の代表がマヤレンテへ集まっている。ちなみに集まるのに時間が掛かりそうだったので、アークバルトが飛空艇を派遣して半強制的に掻っ攫ってきた。


マヤレンテ代表 ジェンヌ・カッサンドラ

ダンガスト代表 ベルジュ・キコノックス

ブリテ代表 ロバート・イルミ

ワン・ジン代表 カン・ルゥ

ザーライン代表 ツェルト・マルタ


 会議が始まると同時に、普人族のツェルトは全てはマヤ・ドラドの独断であり、ザーラインは無関係だと主張し、ダークエルフのカン・ルゥは「とにかくお前たちがどうにかしろ」の一点張り。他の3名は首謀者であるマヤとシェン・ルゥの出身国である2国の主張に呆れ顔だ。


「2人ともいい加減にせんか!ライオネル殿下がいらっしゃるのだぞ!」


 他国の王族の前での醜態に、ついにロバートが切れた。代表の中では最年長でありながら、肉体は5人の中で最も大きく、まるで筋肉の鎧に覆われているようだ。そんなロバートは巨人族で、平均身長は男女共に2メートルを超える。


「まずは御礼を申し上げるのが先決でしょうに」


 疲れたようにため息をついたのは狐人族のジェンヌ。毛艶は一月前よりパサパサで、ゲッソリとやつれて見える。


「左様ですな。まずは御礼を。我らの国をお救い下さり誠に有難うございます」


 狼獣人であるベルジュが立ち上がり頭を下げれば、ジェンヌとロバートもそれにならう。それを見たツェルトが慌てて立ち上がるが、その姿はどこか滑稽だ。カン・ルゥにいたっては立ち上がりすらしない。


「テメェらの事情なんか興味ねぇ。先に報酬の話をしろ」


 無表情にアークバルトが言えば、カン・ルゥが噛み付いてくる。


「貴様!我の国は毒に沈んだのだぞ!先にワン・ジンをどうするかを話すべきであろう!」


「それはテメェらだけでしろよ。俺には関係ねぇ話だ」


「はっ!金獅子と持てはやさているようだが、どうせ何も出来ないのであろう!神が聞いて呆れるわ!」

 

「あん?」


 アークバルトの口から低い声がもれる。周りからはカン・ルゥを咎める声が聞こえるが、そんなことは最早関係ない。輝きを増した金眼がカン・ルゥを捉えた瞬間……「くぁ」と可愛らしい声がした。

 冷たい金眼に熱が灯り、アークバルトの顔がとろける。


「目が覚めたのか?」


 久しぶりの目覚めに、アークバルトはペロペロとレオノールの顔を舐める。


「うー、ぱぱ……」


 まだ眠いのかレオノールはグリグリと顔をアークバルトへ擦り付けると、次いで周りをキョロキョロと見渡す。そこには知らない人間が5人いた。


「だれ?」


「ただの人間だ。気にすんな」


「ただの人間だと!?我はワン・ジンの王、カン・ルゥであるぞ。そこらの何の力も無いような奴らとは違う、選ばれたダークエルフだ!」 


 レオノールは見たことがあるダークエルフと普人族はスルーして、他の3人に目を向ける。


「はじめてみる にんげん」


「そこのデカいのが巨人族、獣の特徴を持っているのが獣人族だ」


「みみと しっぽ ある!」


 レオノールの目はジェンヌとベルジュの耳と尻尾を熱心に見ている。特にふわっふわなジェンヌの尻尾は格別だ。若干パサついているが。


「我を無視するとは何事か!さっさと我が国をどうにかしろ!」


「止めぬか。見苦しい」


「ライオネル殿下の言う通り、それはルピナスの問題でしょう」


 喚くカン・ルゥに頭が痛いと言わんばかりにロバートとジェンヌが止めに入る。


「こちらが報酬の一覧になり申す。ご確認されたし」


 この辺りの事は事前に決められていたのだろう。ベルジュから差し出された目録に、アークバルトもサラッと目を通すと頷いて終わった。


「用事も済んだし、帰るぞ」


「待て!まだ用は終わっておらぬぞ!我の国をどうにかしろと言っておるだろうが!」 


 何故こんなにも話が通じない男がワン・ジンの代表なのか……それには理由がある。

 元々ワン・ジンは魔物を操り、マヤレンテ、ダンガスト、ブリテ、ザーラインから略奪を行って生計を立てていた盗賊国家だ。

 それに苦慮した4国がルピナス連邦国を樹立させ、ワン・ジンを組み込んだ形だ。ルピナスはワン・ジンを鎖で繋ぐための国家だといえる。それほど魔物を操る力は厄介なものであった。

 結果、今では傭兵として雇ったり、魔物素材を買い取ったりして、何とか上手く付き合っている。そんな背景から、ワン・ジンの代表は横柄で他人の言う事を全く聞かないし、ルピナスの国主になる事もない。国主の主な役割がワン・ジンとの調整役だからだ。

 故にワン・ジンは今まで武力で上に立ってきのだが……今回ばかりは相手が悪かった。


「黙れ」


 その一言でカン・ルゥは床に這いつくばる事になった。カン・ルゥを助けようと動いた魔物は、蔓に絡め取られてレオノールの養分だ。


「ぱぱ にえ なに?」


 レオノールにとって願いを叶えるという事は、相当の対価を必要とする。それが贄だ。

 

「ニンゲンはな、俺たちと違うルールで動いている。ニンゲンの対価は基本的には金だな」


「にえは ぎせい。おかね たいか ちがう」


 その言葉に周囲の空気が凍った。何かおかしなモノを見る様な目が向けられるが、レオノールは無邪気に続ける。


「ねがい なに?」


「おい、答えろ」


 アークバルトがカン・ルゥの頭を踏みつけるが、こちらを睨み付けたまま動かない。いや、その目には明らかな怯えの色が見てとれる。


【答えろ。カン・ルゥ】


「毒に、沈んだワン・ジンを元に戻してくれ」


 力のある声にカン・ルゥの口が勝手に動くが、その声は酷く震えていた。本能的に分かるのだ。願いを言ったら最後、自分から何かが失われると。


「わかった。わたし ほしいもの ある」


 この瞬間、誓約が結ばれた。

 遠からずワン・ジンは元の姿を取り戻すだろう……贄と引き換えに。


「へぇ、何が欲しいんだ?」


 レオノールが欲しがるモノは全て手に入れる主義のアークバルトが、笑いながらカン・ルゥを見る。先程までとは違い、その目は獲物を狙う猛禽のようだ。 


「しぇん・るぅと おなじちから。でも ひとつだと たりない。もっと たくさん。にえの ぶんだけ わたし むくいる」 


 レオノールがカン・ルゥを指差すと、その顔色が悪くなる。ワン・ジンにとって力こそ誇りであり、全てだ。それを奪われるという事は死ねと言われる様なもの。慌ててカン・ルゥが口を開こうとするが、アークバルトがそれを許さない。


「ハハハッ!流石は俺のレオノール。よく分かってんな」


 ――自分たちの本質を。

 ――自分たちの存在を。


「おい、聞いたな?ワン・ジンの民を1人残らず連れて来い」


 残りの4人は頷きを持って、これに答えるしかなかった。

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