ルピナス連邦国 ザーライン
クライシス国王で所用を済ませたアークバルトたち一行は飛空艇でルピナス連邦国のザーラインに向かっていた。
ルピナス連邦国は5つの国――ダンガスト、ワン・ジン、ザーライン、マヤレンテ、ブリテ――からなる連邦国家で、10年に1回の持ち回りで代表国家が代わる特殊な政治形態を持つ国だ。今の代表はザーラインにあるドラド家である。
眼前に雄大な山脈が見え、アークバルトはレオノールを抱いたまま窓へ近付く。
「あれがルピナス山脈だ。その向こうがガザール帝国だな」
「あのやまの むこう ふたつある」
「金眼か?」
コクリとレオノールが頷く。近付いているせいかハッキリと分かる。
「あっちに ひとつ」
次に指したのは飛空艇の進行方向になる。
「こっちはザーラインだろうな」
もともと回収依頼がきた国だ。あってもおかしくはない……というか、無かったらアークバルトはキレる。
「他には分かるか?」
んー、とちょっと考えた後に自信なさそうにレオノールは指差した。
「あっち。でも、けはい へん」
「どう変なんだ」
「わたしの ちがうみたい。でも わたしの。だから へん」
「人間が何かしたのかもしれねぇな」
大体こういう時に、何かやらかしているのは人間である。碌でもないことしかしない、と言うのが人間に対するアークバルトの正直な感想だ。
「最後の1つは分かるか?」
目を閉じて感覚を研ぎ澄ますが何も感じない。レオノールはしょんぼりとアークバルトを見た。
「どうせ探すつもりだったんだ。気にしなくていい。4つ場所が分かっただけでも上等だ」
そう言ってアークバルトはレオノールの頭をグシャグシャと撫でた。
ザーラインに着いたレオノールは、相変わらずアークバルトの腕に抱かれてお人気状態だ。
歓迎の言葉もそこそこに、豪奢な部屋へと案内されたレオノールの目は、重厚な机の引き出しへと惹き寄せられる。
金眼だ。金眼が自分を呼んでいる。
「こちらが破滅石です。どうぞご確認下さい」
引き出しから出された箱は厳重に魔法封印がされていたが、金眼に効果があるはずも無く、力はダダ漏れであった。ずずいっと前に差し出されたその箱を躊躇いなく開けたアークバルトは、中にある金眼を手に取った。
「確かに本物だな」
アークバルトの手の中にある金眼を見つめ、国主であるドラド家当主マヤ・ドラドがホッとしたように笑う。
「これでようやく肩の荷が下りました」
「これを持っていた貴族はどうした」
「国家反逆罪で既に処刑済みです。なにせ既に3カ国を消滅させているのですから」
「ああ、恐ろしい」とマヤは体を震わせる。それを見てレオノールは"嘘"だと感じた。神であるレオノールに嘘は通じない。当然アークバルトにもだ。
「俺を待たずに処分したと?」
不機嫌そうに金眼を手のひらの上で転がすアークバルトに、畏れ多いと言わんばかりにマヤが頭を下げる。
「ライオネル殿下の御手を煩わすなど、とんでもない事でございますので。ご不快に思われたのなら謝罪致します」
どんどんレオノールの不快感が強くなる。コレは嘘しか言わない。伸びそうになる蔦を必死に抑え、落ち着くためにアークバルトの肩に顔を埋める。
「今日はお疲れでしょう。明日の夜に歓迎の宴を開きますので、それまでごゆるりとお寛ぎ下さい」
「いいだろう」
いつもは断るであろう誘いを受けたアークバルトに、レオノールは抗議の意味を込めて服をグイグイ引っ張った。
レオノールの訴えに気付いたのか、即座に身を翻して部屋を出て行くアークバルトに、マヤが追加で声をかける。
「滞在は3日と伺っておりますが、間違いございませんか?」
「何が言いたい」
「その、たいへん申し上げ難いのですが、破滅石が我が国にある内は民も安心できませんので。ご容赦下さい」
さっさと持って行け、つまりはそういう意味だ。
安心できないのは自分の癖に、とレオノールは思う。コレはナニカを酷く恐れている。破滅石ではない、今から来るであろうナニカを。
用意された部屋へと戻ったレオノールは、アークバルトの膝の上に座らされた。額をコツン、とされ安心したためか、蔦が一気に伸びて扉と窓を重点的に塞いだ。全身でこの国は信用できない、とアピールしているかの様だ。
「大丈夫か?」
レオノールの口から出るのは「うー」と言う不満の声だけ。いつもは大人しく聞き分けの良いレオノールだけに、アークバルトもこの国に何かがあるのだと確信が持てた。
「明日は俺だけで行ってくるから、レオノールは部屋で休んでろ」
今から探りを入れるが、3日では厳しいかもしれない。人間の都合など全く考えないアークバルトは、その時は滞在を延ばせばいい、と思っていたのだが……レオノールが嫌がるなら実力行使にでようと心に決める。アークバルトの世界はレオノールを中心に回っているのだから。
「なにか くる。にんげん こわがってる」
レオノールは感知能力が高い。育った環境か、はたまた魔喰樹の特性か、感知能力だけでいえばアークバルトやギルバート以上だ。
眉を寄せアークバルトは考える。その何かが敵であるのなら、自分たちを追い出さずに利用しようとする筈だ。なにせ金獅子は神そのもの。実際今まで幾度となく世界の危機を食い止めてきたのだから。
「まさか金眼を狙っているのか?」
レオノールの言う"何か"、が金眼を狙っているのであれば話が変わる。その"何か"をアークバルトに押し付け、自分は高みの見物か。
「気に入らねぇな」
自分を利用とする輩も、レオノールを危険に晒す状況も、何もかもが気に入らない。
アークバルトは影を呼ぶと調査を命じる。憂鬱だが、明日の歓迎の宴とやらにも出るしかない。そんなアークバルトを見て、レオノールは真っ直ぐに手を挙げた。
「わたし さぐる」
その目は決意に燃えていた。自分もアークバルトの役に立つのだと。
「ダメだ。危ないことはさせられねぇ」
「だいじょぶ。わたし のぞくだけ」
レオノールは蔓で自分の体を引っ張って運ぶと、ベッドに横になる。そうして薄く、薄く意識を拡散した。




