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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
琥珀宮での日常
22/23

暴走事件再び

 誕生パーティーの翌日、深刻な表情でアークバルトとギルバートは顔を突き合わせていた。しばらく無言で向き会った後、目を閉じたギルバートが重い口を開いた。


「クライシス王国の王都が消滅した」


 クライシス王国とはウェセント大陸の丁度真ん中付近に位置する国だ。デュオ・アムーレやガザールに比べれば小さいものの、中央諸国の中では1、2を争う大国である。空を飛び交う飛空艇の発着地でもあり、その繁栄具合は目を見張るものがある。

 そんな国の王都が消滅したのだ。大事件である。


「それはあれか、金眼の暴走か」


 何処かで聞いたような話に、アークバルトはげんなりとした様子で溜息をつく。

 確かに昨日レオノールは大泣きした。うれし泣きだったが。


「うむ、影が金獅子の力を確認した」


「そういや、あれから1年以上経っているが、金眼はどの位回収できたんだ?」


「1つだ」


 ギルバートがあれだけ金眼の危険性を訴えたにも関わらず1つ。その事実にアークバルトは眉をひそめた。


「最近、人間は俺たちを舐めてんじゃねぇか」


「最後に他国で力を使ったのは魔喰樹の時か。いや、確かその後そなたが国ごと燃やしていたか。どちらにせよ人間はすぐに忘れる生き物だ。そろそろ我らの力を思い出させるべきか」


「暴れて来いってか。俺はそれでもいいぜ。金眼を保有している国を更地にしてやる」 


 アークバルトが牙を剥き出しにして嗤う。愛しいレオノールの金眼が利用されている、そう考えるだけで頭が沸騰しそうだ。


「馬鹿者、金眼を回収しに行くのに更地にしてどうする。更地にするのは金眼を隠している者だけにせよ」


「それが国だったら?」


「滅ぼせばよい」


「ハハハッ!さすが父上、話が分かる」


「ふん。腹が立っているのが、そなただけだと思うな。まあ、儂らが動くのはもっと先だ。レオノールを連れて行くのなら準備だけは怠るなよ」


 返事の代わりにヒラヒラと手を振り、アークバルトは部屋を後にする。

 首都=国であったイズミカ王国とミネルバ王国とは違い、クライシス王国は王都が消滅したとしても国自体が滅んだ訳ではない。これから国が大いに荒れるだろう。

 上手く収められればいいが、周辺諸国に併呑される可能性もある。そうなれば原因究明どころではなくなる。

 と、なればアークバルトが動くのは思ったよりも後になるかもしれない。1年前に各国に警告したギルバートが自ら動くことはもうない。1度目の慈悲を人間は拒絶したのだ。次に動くのは人間がこちらに慈悲を乞うて来た時のみ。


「滅びるなら滅びればいい」


 薄く笑ったアークバルトはレオノールの元へ帰るべく歩き出した。







「レオノールに人間学を学ばせるべきだと思うわ」


 いきなり訪ねてきたマリアベルが席に着くなりそう言い放った。


「お父様から聞いたのだけれど、レオノールを連れて外交に行くんですって?」 


「ハッ!外交ねぇ」


 鼻で笑うアークバルトを見てマリアベルは確信する。アークバルトは外交を行うつもりは全くないのだと。脅迫だけならまだいい。最悪刃傷沙汰になるかもしれない。実際はもっと酷く、国を滅ぼす気満々だが。

 外見詐欺のマリアベルは、うら若き乙女に見えて海千山千な外交官のトップだ。アークバルトがやらかすであろうアレやコレを、最終的にどうにかするのはマリアベルなのである。

 そのためレオノールに人間の常識を学んでもらい、ストッパーになってもらおうと言う魂胆だ。


 幸いレオノールの教育は順調だ。


 先程、進行状況を確認して来たところ、ライオネル語、歴史、外国語、古代語、算術、経済学は全て学び終えていた。残っているのはマナーと教養、ダンス、武術、魔法――これらは体が小さいため座学のみとなる――と人間学だ。

 人間学とは代々の金獅子が学んでいる、人間の生態及び精神性を学ぶ学問である。何せ金獅子は神。あまりに人間の感覚と乖離しているために、国を治める為の必須事項となっている。


「レオノールも一緒に行くなら絶対に学んでおいたほうがいいわ。お兄様もレオノールが傷付くのは嫌でしょう?」


 マリアベルは半ば脅しにかかる。こう言えばアークバルトは無視出来ないと知っているからだ。案の定、眉間にシワを寄せて考え始めた。


「レオノールは人間の寿命のことも知らないんでしょう?友達ができてから知るのと、知ってから友達を作るのとでは全然違うわ」


 これはマリアベルにも言える問題で、中々結婚に踏み切れないのもこの寿命問題のためだ。


「じゅみょう なに?」


 今までアークバルトの隣で「初心者でも分かるマナーと教養」を読んでいたレオノールが顔を上げる。どうやら次の課目はマナーと教養の様だ。


「生物はね生きられる期間が決まっているのよ。それを寿命と言うの。普人族が大体70年、ドワーフが120年でエルフは300年位かしら。獣人族は種類によってマチマチだけど、大型の獣の方が寿命が長いわ」


「わたし ずっといきるよ?」 


 不安になったレオノールがアークバルトを見る。その手はぎゅっとアークバルトの服を握っていた。


「安心しろ。俺もそうだ」


 その会話に唖然としたのはマリアベルだ。


「ちょっと待ってちょうだい。代々の金獅子帝の寿命は400から500年だと習ったのだけど」


「俺たちは死のうと思った時が死ぬ時だ。おおかた生に飽きるのがその辺なんだろ」


「ぱぱとじぃじ しなない?」


「俺がレオノールを残して死ぬわけねぇだろ。父上も最近若返ってきてるから、死ぬ気はねぇよ」


「確かに肌艶が良くなってきたと思ってたけど、そう言う事だったの!?」


 衝撃の事実に叫ぶマリアベルと、アークバルトに甘えるレオノール。当然アークバルトがどちらを相手にするかは決まっている。抱き上げてレオノールの額、目尻、頬と順番にキスをしていく。一番最後は唇だ。イチャつく2人にマリアベルの目が据わってくる。


「やっぱり人間学は必要ね。いいことレオノール。人間はそんなにキスしたりしないわ。特に人前ではね」


 ビシリと扇で2人を指して指摘すれば、レオノールはショックで固まる。


「にんげん きすしない……」


「いい加減なこと言うなよマリアベル。いいか、レオノール。こういうのは家庭によって違うんだ。俺たちの挨拶はずっとこうだ」


 そしてまたレオノールにキスをして、レオノールもアークバルトへキスを返す。それを見たマリアベルはやってられない、とばかりに紅茶に砂糖を3つ投入した。


「もう、それならお兄様が人間学で教える内容を選べばいいじゃない。知識がないままレオノールを人間の世界へ連れて行くのは良くないわ」


「それは……まあそうだな。基礎的な生態だけでも教えておくか」


 何とかアークバルトを説得したマリアベルは疲れた足を引きずりながら帰っていき、次の週からレオノールの授業に人間学が加わった。

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