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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
琥珀宮での日常
20/22

勉強の始まり

 教師を選別すること3ヶ月。

 ついにレオノールの授業が始まった。ただレオノールが小さいこともあって、授業は午前中のみとなっている。

 まずはデュオ・アムーレで使われているライオネル語から、となったがレオノールが読み書き全てをマスターしていると分かると、直ぐに話し方講座に変更となった。


「よろしいですか、レオノール様はこの国で3番目に尊い御方です。敬語は皇帝陛下と皇太子殿下以外使ってはなりません」


「おい、おかしな事を教えるな。よく聞けレオノール。誰が相手だろうとお前が敬語を話す必要はねぇ」


 開始早々違うことを教える教師とアークバルトを見つめ、レオノールは今まで読んだ本の内容と照らし合わせて、どちらが正しいのか考える。その結果……


「ぱぱ じゃましないで」


 アークバルトは部屋から追い出され、それを見た教師が震えた。そう、琥珀宮で最も強いのはレオノールなのだ。


「せんせい、つづき」


「あ、はい。ええと言葉遣いは周りの方を参考にすると分かりやすいかもしれませんね」


 そこで教師はアークバルトの言葉遣いを思い出した。そこらの破落戸のような口の悪さを。乱暴な言葉遣いで喋るレオノールを想像し、命の危険を感じた教師が早口で訂正する。


「国王陛下!そう、国王陛下の言葉遣いなら間違いありません!もうレオノール様に教えることは何もありませんね!流石でございます!それでは私はこの辺で失礼させて頂きますね!」


 そう言って立ち去った教師は2度と帰ってくることはなかった。


 



 その日の午後、レオノールの授業の様子を確かめようと、琥珀宮にマリアベルとサイフィードが訪ねてきた。マリアベルとは面識があったのか、サイフィードはにこやかに挨拶を交わし談笑している。


 レオノールはと言えばティーポットを抱えて紅茶を淹れようと奮闘していた。以前マリアベルに淹れてもらったのを覚えていたのだ。

 バーニャに教えてもらいながら茶葉を入れて……そこで終わりだった。お湯を使うためやらせてもらえなかったのだ。その代わり蔦を使って全員の元へ紅茶の入ったカップを運んだ。ちょっと溢れてしまったがレオノール的には大満足だ。


「それで今日はどんなことを学んだの?」


 マリアベルの質問に、ちょっと考えたレオノールは先程習ったことを実践してみた。 


「わしに おしえることは もうないと いって かえって いったぞ」


 眉間にシワを寄せて偉そうに言うレオノールを見たマリアベルが慌てて扇を広げて口元を隠し、サイフィードは紅茶を吹き出した。


「父上のモノマネか。よく似てるぞ」


 褒めることしかしないアークバルトが持ち上げ、マリアベルとサイフィードはテーブルに突っ伏して肩を震わせている。淑女と貴公子に在るまじき姿だ。


「え、本当にそれを教わったの?」


 先に立ち直ったサイフィードが目尻に溜まった涙を指で拭い、未だに笑いの渦に飲み込まれているマリアベルはヒイヒイと苦しげな呼吸をしている。どうやら笑い上戸のようだ。


「うむ。じぃじの ことばづかいを さんこうに するように いわれたのだ」


 レオノールは肘をついて両手を組むと、その上に顎を乗せる。ギルバートがよくやるポーズだ。


「ダメっ!し、しぬ」


 それが止めの一撃となった。

 椅子から崩れ落ちたマリアベルをサイフィードが慌てて支え、レオノールもアークバルトの膝から降りようとして……敢え無く捕まった。


「無理して言葉遣いを変える必要はねぇよ。レオノールが話しやすい喋り方をすりゃいい」


 後ろから抱きしめられたレオノールはクルリと後ろを向いて、眉をハの字に曲げる。


「でも ふさわしい ことばづかいがあるって」


「いいかよく聞け。相応しい言葉遣いをレオノールがするんじゃねぇ。レオノールの言葉遣いこそが相応しいんだ。合わすのはおまえじゃなくて周りだ」


 暴論だがそれこそが正しい。誰が神の言葉遣いを間違っていると批判できるというのか。それは神の個性であり、相応しいかどうかを決めるのは神自身だ。そこに人間が口を挟む余地はない。


「ハァハァ、ふぅ。いいえ、お兄様は間違っていますわ」


 毅然と言うには些か疲れ切っているが、マリアベルが物申す。アークバルトの顔が不愉快に歪められてマリアベルを睨みつければ、ビクリと小さく体が震える。それに気付いたのはマリアベルを支えていたサイフィードだけだ。

 毅然として真っすぐアークバルトを見つめる姿は眩しく、今まで培ってきた経験がマリアベルを支える。


「やはり言葉遣いは似合う似合わないがあると思いますわ。レオノールがこれから自分のことを儂と呼び始めたら如何するお積もりですか」


 ふと真面目な顔になった保護者3人組の視線が絡み合う。そこに諍いは一切なく、あるのは1つの意思に束ねられた決意だけ。


「レオノール、自分のことは今日から私と呼ぼうな」


 アークバルトは今までの自分の言葉をなかったことにし、そっとレオノールの肩へと手を乗せた。そこに即座に追従するマリアベルとサイフィード。


「レオノールには私が似合いますわ」


「僕もそう思うよ。なんと言ってもレオノールは世界で一番可愛いからね」


「わかった。れお きょうから わたしいう」


 こうして授業1日目は波乱とともに幕を閉じた。



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