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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
琥珀宮での日常
19/20

マリアベルとのお茶会

 秋も深まってきたある日、レオノールへお茶会の誘いが届いた。招待人はマリアベル。アークバルトの異母妹である。


「別に嫌なら行かなくていいぞ」


 むしろ行くな、と言わんばかりに面倒くさそうなアークバルトが手元を覗き込んでいる。アークバルトに読んでもらわなくても、レオノールは1度見聞きしたものは忘れないので、既に読み書きは完璧だ。

 ペンを取ったレオノールは丁寧に返事を書き始めた。丁寧とは言ったものの、レオノールは琥珀宮に来てからまだ1ミリも背が伸びていないため、小さな手で繰り出される文字はお世辞にも上手だとは言えない。


「かけた」


 そう言って返事をアークバルトに見せれば、大人顔負けの文章で参加する旨が書かれていた。アークバルトが仕方なさげにジルを呼び、その手紙はマリアベルへと届けられた。






 マリアベルとのお茶会は左翼にある第四庭園で行わる運びとなった。

 左翼は金獅子以外の皇族が住まう本宮以外に離宮は存在せず、その代わりに本宮を囲むように4つの庭が存在した。どれも手入れが行き届いており、趣の異なった花々が楽しめる。

 一番有名なのが第一の薔薇園だ。王族が開催するお茶会は主にここが使用されており、季節問わず咲き誇るバラは圧巻の一言。高位貴族でさえ思わず感嘆のため息をつく程だ。

 第二庭園は季節の花々が楽しめ、第三庭園は背の低い花々が何処までも広がっているピクニック用の庭園だ。

 その中で第四庭園は異色を放っていた。生垣に四方を囲まれて外界から遮断されており、中を覗けない様に造られているのだ。

 中央に設置してあるテーブルから生垣までは視界を遮るような背の高い花や木も植えられておらず、誰かが接近してくれば嫌でも分かる。つまり密談用の庭園である。


「ようやく会えたわね。アクアネル公子。私は第一王女のマリアベルよ」


「まりーべる、れおは れおのーる」 


 レオノールが上手く発音できないとわかると、マリアベルはいい事を思いついた、と言わんばかりに手を叩いた。


「そうだわ。私のことはマリーと呼んでちょうだい。その代わり、私もレオノールと呼んでもいいかしら」


「いい」


 お互いに自己紹介して用意してあった子供用の席……ではなくアークバルトの膝の上に座る。

 テーブルの上には色取り取りの菓子が並べられ、マリアベル自ら入れた紅茶が振る舞われる。


「ごめんなさいね。生肉は苦手なの。代わりにお菓子を用意したのだけれど食べれるかしら?」


「レオノールは生肉しか食わねぇ」


 アークバルトの言葉とは裏腹にレオノールの目は興味津々に菓子を見ている。クンクンと匂いをかいて、不思議な匂いに首を傾げる。


「もしかしてお菓子は初めて?」


 コクリと頷いてアークバルトの袖をチョイチョイと引いた。


「れお たべてみたい」


 ちょっと驚いた顔をしたものの、アークバルトは菓子の吟味をはじめる。


「スポンジ系は喉に詰まらせたらいけねぇからな。これなんかはどうだ?」


 差し出されたのはプリンだ。生クリームが綺麗に周りを囲み、色取り取りのフルーツがその上へ乗せられている。

 アークバルトがプリンを口に含み、そのままレオノールの口へと運ぶ。食べた瞬間、レオノールの髪から蔦と花がぶわっと広がった。焦ったアークバルトがレオノールを見れば、ほっぺを押さえてほうっと息を吐いていた。


「もっと」


 求められるままにプリンを運ぶアークバルトの姿にマリアベルは目を丸くする。


「噂以上の溺愛ぶりね」


 その声音は呆れ果ててはいたが嫌味な感じは全くなく、どちらかと言えば安堵の色が濃いだろうか。

 レオノールが満足したのを見計らってマリアベルが声を掛けてくる。


「ふふふ、そう言えばラプトル隊員が三股をかけられていたのを見破ったのですって?それから結婚詐欺に遭っている隊員を助けたとか」


 最近噂になっている事柄だ。ただし"誰が"見破ったかは語られず、ラプトル隊員の騙されやすさが面白可笑しく語られているだけだ。


「らぷー おしえてくれた」


 コミュニケーション能力の高いラプトルは非常にお喋りだ。しかも訓練後の自由時間は行動が制限されておらず、人間が知らないだけで色んな所に出入りしている。

 密かに集団で獲物を狩るだけあって、隠密行動にも長けているのだ。


「他には何を話していたの?」


 この直後、半ば興味半分で聞いたことをマリアベルは後悔することになった。


「にわしの けびん かんちょうだって いってた」


「今なんて?」


 思わず素で返してしまったマリアベルにレオノールはもう一度告げる。

 マリアベルが恨みがましげにアークバルトを見るのも仕方のない事だろう。せっかくの休暇中に電話で仕事をぶち込まれた会社員の気持ちである。

 レオノールを褒めるばかりで全く役に立たないアークバルトに代わり、マリアベルは「これ以上は勘弁」という気持ちと「ゴミの掃除に役立つかも」という相反する思いを抱えてレオールに質問を続けることにした。


「他にも何かあるかしら。ほら、悪い人の話とか」


「んと、ちゅうぼうの べじー つまみぐいしてる!」


 餌を盗むという行為はラプトルにとって完全悪だ。いくら飼われているといっても餌の略奪は生死に関わると本能で分かっているためだ。

 その旨を全く分かっていなさそうなマリアベルにレオノールは拙い言葉で伝えていく。


「お兄様、レオノールに教育係をつけてはどうかしら?」


 人としての善悪以前に、レオノールの感性が人とは全く異なることに気付いたマリアベルは、知識を与えることで人がどういう生き物かを教えるべきだと感じた。今はまだいいが、このまま成長してしまえば人の世界に馴染めなくなるだろう――異母兄(アークバルト)のように。


「必要ねぇよ」


 自分が側にいればそれでいい、そんな傲慢さが透けて見える。小さな世界にアークバルトだけがいる、そんな優しくて残酷な箱庭。それはきっとレオノールの為にならない。


「あら、それはレオノールが決めることだわ。どうかしら?この国のこと、他の国のこと、沢山の世界を学んでみたくはないかしら?その知識はきっとあなたの役に立つわ」


 強い目がレオノールを見る。その中にはアークバルトとはまた違うポカポカする何かがあって、レオノールに訴えかけている。


「れお べんきょする」


 気付けばそう答えていた。そしてその答えは正しいと感じた。昔、遥か遠い昔、自分は何かを決定的なまでに間違えたのだから。



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