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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
琥珀宮での日常
18/20

初めての狩り

 本日レオノールは狩りに来ていた。

 ラプトルの狩りに大いに興味を持ったレオノールに、アークバルトが自分のカッコイイところを見せようとした結果である。今いるのは帝城右翼から随分と奥へと進んだ場所だ。


 金獅子の力が満遍なく行き渡っているデュオ・アムーレでは、魔力濃度が他国に比べて遥かに高い。そのため有する魔の森も広大で、強大な魔物がウヨウヨいる世界屈指の危険地帯だったりする。

 国境沿いを囲むように魔の森が存在するため、隣国へ抜ける道は僅か3箇所のみ。魔力濃度が薄い場所を切り開いて作られた道ではあるが、安全とは言い難く、利用しているのは金のない人間か、急いでいる人間かのどちらかだ。

 そんな理由から船で行き来するのが一般的で、金のある豪商や貴族は、空を行く飛空艇を利用している。まあ、飛空艇は月に往復1便しか運航されていないが。


 そんな危険地帯へ来ているレオノールの格好はいつものワンピースにカボチャパンツで、靴すら履いてはいない。アークバルトの格好も城にいる時と変わらず、とても魔の森の奥地にいるとは思えない。

 そんな格好でぶらぶらと歩いていると、急にアークバルトが左を見た。


「あっちだな」


 言葉と同時にアークバルトが走り出し、レオノールの髪が後ろへ流れる。向かっている先へレオノールが目を向ければ、20メートルを超える巨大な魔物が必死になって逃げていた。

 アークバルトが腕を振るうだけで魔物の頭が弾け飛んだが、頭部を失ったことに気付かないのか、未だに体だけが走っている。やがて動きが緩慢になり、ドドゥっと音を立てながら倒れた。


「ギィ、出てこい」


 今までアークバルトの影に入っていたギィが飛び出してきて、レオノールはその背に座らされた。ブチブチと魔物を引き千切っているアークバルトは魔物の血で真っ赤に染まり、やがて目当ての物を見つけたのか脈打つ何かを手に持って戻って来た。


「ジェノサイドベアの心臓だ。レオノールはまだ食ったことねぇだろ?」


 ジェノサイドベアと言えば、小国を単体で滅ぼすことのできるSランクの魔物だ。

 Sランクの魔物とは普通は激しい生存競争を生き残った個体が、長い年月をかけて進化を繰り返し、たどり着くものなのだが……デュオ・アムーレにはゴロゴロいたりする。

 人里には降りてこないため放置されているが、アークバルトとギルバートがちょこちょこ狩っているので数が増えることはない。

 そんなジェノサイドベアの心臓にアークバルトが噛みつけば、血がブシュッと吹き上がり、それを見たレオノールの喉がゴクリと鳴る。レオノールにとってはかぐわしい、人間にとっては吐き気をもよおす生臭い香りが周辺一帯に広がった。


 そんな中、早く早くと口を開けたレオノールの求めに応じて、アークバルトが口移しで食べさせていく。

 アークバルトの口を伝って流れてくる新鮮な血は濃厚で、心臓は今まで食べてきた肉とは全然違った。凝縮した魔力がレオノールの喉を焼き、カッと体が熱くなる。

 レオノールが気に入ったのが分かったのか、アークバルトはグチャグチャとソレを咀嚼し、親鳥のようにレオノールへと運ぶ。そうしている内に、レオノールは段々と頭がフワフワとしてきて、目がトロンと潤んでいく。


 そして…レオノールの意識はプツリ、と途切れた。




 次にレオノールが目を覚ました時、ミイラのようにグルグルに蔓を巻き付けたアークバルトが、クモの巣に引っ掛かった獲物のごとく蔓に絡め取られて浮かんでいた。

 レオノールはと言えば、そんなアークバルトをベッドにして眠っていたようだ。下を見れば蔓に引っ掛かったギィが哀れな声で鳴いており、その近くには根っこに貫かれた魔物が干からびていた。いや、それだけではない。

 レオノールの根は随分と遠くまで伸びており、その範囲内にいた魔物は全て死んでいたのだ。中にはSランクの魔物の姿もある。


 何故こんな事になっているのか、全く記憶のないレオノールがアークバルトの蔓を緩めれば、金色の目と目が合った。


「ぱぱ なにしてる?」


 どっからどう見ても何かをしたのはレオノールなのだが、アークバルトがその気になれば蔓など簡単に外せるので、遊んでいるように見えなくもない……のかもしれない。

 シュルシュルと蔓を操りながら、アークバルトと自分を地面へと下ろしたレオノールは、ギィの蔦を解いてやる。するとギィはヤレヤレと言わんばかりに寝転んだ。

 レオノールがキョロキョロ周りを見回していると、ひょいっと後ろから抱き上げられた。定位置である腕の中に収まると、何故か酷く安心する。

 

「何も覚えてないのか?」 


「れお たべてた」


「レオノールは酔っ払ってたんだよ。血に酔ったんだ」 


「ちに よう?」


「そうだ。一気に濃厚な魔力を取ったせいで体が驚いたんだ」


 小さな手をグッパ、グッパと動かしてみるが別に変わりはないように思える。


「大丈夫そうだな」


 安心した様に笑ったアークバルトが頭を撫でてきて、それから周りを見回した。


「この蔓や根はどうなってんだ?レオノールとは繋がってねぇよな?」


 そう言われて髪の毛を摘んでみれば、確かに蔓に変わってはいない。それでも直接繋がっていないはずの蔓と根を、確かに自分のモノだと感じる。

 レオノールが目を閉じて呼びかければ、蔓延っていた蔓と根が戻って来て手の中へと収まった。そこにあるのはちょっと大きめの種だ。ジッとレオノールが見つめると、ソレが何か分かった。


「これ れおなの。れおは れお ふやせる」


「分身みたいなもんか。もう一度広げられるか?」


 レオノールが種を地面へと放ってみると、思う通りにぶわっと根と蔦が広がっていった。それを確認したアークバルトは移動を開始し、ギィが慌ててその影へと入った。

 この辺りの魔物は強くてギィでは敵わないのだ。取り残されたが最後、美味しく頂かれてしまうだろう。


「この辺りでいいか」


 アークバルトが止まったのは、先程の場所から大分離れた、森の中にできた小さな広場。


「蔓の様子は分かるか?」


「わかる」 


「動かせるか?」


 試してみると先程と同じ様に動いたので、アークバルトに頷いて知らせる。ただ強度は先ほどより弱くなっているのか、大きい獲物は捕れそうにない。


「面白い力だな。鍛えていけば、その内デカい獲物も仕留められるようになる」


 罠にも使えるし、何より感知出来るのが素晴らしい。レオノールが身を守る術が増えたのだ。


「種はそのまま置いていくぞ。動かせる距離も知りてぇしな」


 琥珀宮まで帰ったが、レオノールとの繋がりは維持できている。アークバルトの勧めもあってレオノールは1日に1回蔓と根を動かして遊ぶことにした。





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