ラプトル隊への訪問
「れお らぷーとあそびたい」
その一言でラプトル隊の運命が決まった。
レオノールの初めての我ががまを拒絶できる者などおらず、粛々とラプトル隊訪問への手続きが進められる。
「先ずは秘密保持の誓約書を書かせるか」
幸いなことにラプトル隊の人数は100名前後。全員に誓約書を書かせたとしてもそれ程時間は掛からない。むしろ最も高い効力を持つ誓約書を用意することになった、宮廷魔導技術部門の魔術師の残業が確定した。
「身辺調査が先だろ?」
「ラプトル隊に入った時点で終わっておるわ」
宮殿勤務のラプトル隊の審査は厳しい。高位貴族の推薦及び連帯保証が必要なのだ。連帯保証が付いているとあって二の足を踏む貴族も多く、この時点でほとんどの人間は脱落する。
ここを通過できるのはラプトル愛に溢れる者のみ。ちなみに、推薦者はラプトル隊所属の高位貴族である。
「ハッ、現時点での身辺調査に決まってんだろ。レオノールを変なヤツに会わせられねぇ」
「調査させるのは構わんが、ラプトル隊は変人しかおらんぞ」
「……どうにかならねぇか」
「無理だな」
本音を言えば人間になど会わせたくないアークバルトだ。それが変人とあらば尚更その気持ちが強くなる。
「れお らぷーとあそべない?」
大人しくギィと遊んでいたレオノールが不安にかられてアークバルトを仰ぎ見る。何故か花まみれになっている凶悪な顔付きのギィも一緒に。
「そんなことねぇよ」
最近言葉が流暢になってきたレオノールを安心させるように撫でると、アークバルトは優しく微笑んだ。
「聞けっ!本日、皇太子殿下とアクアネル公子が我がラプトル隊を視察される。注意点を覚えているな?キリンヌ言ってみろ!」
ラプトル隊隊長エルマー・フォン・ラブラトルは欠伸を噛み殺している隊員を指差す。
「ハッ!アクアネル公子の服装について何も指摘しない、であります!」
これはワンピースを着ていることを、本人に疑問に思わせない為のアークバルトのセコい策略である。
「よろしい。では次ピロー、2つ目の注意点を述べよ!」
エルマーの視線が横にズレれば、クシャクシャの寝癖まみれの男――ピロー――がピンと背筋を伸ばす。
「ハッ!アクアネル公子の容姿及び御力について詮索しない、です!」
これは当然金眼と魔喰樹の力のことだ。レオノールが金眼を持っていることは未だ伏せられており、大衆にはアークバルトが気に入ったから宮殿に残っていると噂されている。まあ、事実だが。
「よろしい。良いか諸君、アクアネル公子は皇太子殿下のご寵愛を一身に受ける存在であらせられる。さらーに!金獅子様と銀竜様の両方の御力を継いでいらっしゃるのだ!」
エルマーの重大発表にその場が騒然となる。デュオ・アムーレの神話を聞いて育っている彼らは、当然バレンシアガが邪神となったことを知っている。
危険なのでは、大丈夫なのか、更には邪悪な存在ではないのか、と言った声さえ聞こえてくる。
「静粛に!良いか、銀竜様は金獅子様の双子神であらせられる。邪神に堕ちたのも元はと言えば欲深い人間が御子を殺したせいだ!元々の銀竜様の御力は決して邪悪なものではない!」
確かに、それもそうか、と言う納得の声も聞こえるがそれは極一部。やはり大半は納得していないのかダンマリだ。このままでは使命が果たせないと感じたエルマーは特大の爆弾を落とすことにする。
「そして銀竜様の御力を継いだアクアネル公子は……何とラプトルと会話が出来るのだ!!」
「「「ウオオオォォォォォォ!!!」」」
特大の歓声が響き渡り、それはやがて「アクアネル公子万歳!」と言う声に塗り替えられていく。
これがラプトル隊。
これぞラプトル隊。
ラプトル馬鹿の集団である。
さて、そんなことが起きているとはつゆ知らず、レオノールはギィに乗ってラプトル隊の兵舎まで来ていた。ウオオオォォォォォォ!!!と言う歓声の後に「アクアネル公子万歳!」という怒号にも似た叫び声。
不安になってアークバルトを見てみれば、眉間にシワを寄せてコメカミを揉んでいた。
クルルッとギィが大丈夫だと太鼓判を押し、兵舎を避けてそのままラプトルたちがいる草原へ向かっていく。ラプトルたちもレオノールに気付いたのか、鳴き声を上げながら近付いて来た。
クルルッとレオノールが挨拶すれば、皆が競い合うように鼻を寄せて来る。クルルッ、クルルルルッと話をして顔を擦り付け合う。ラプトル流の挨拶だ。
そうしている内に強い視線を感じてレオノールは振り返る。そこには……レオノールをガン見しているラプトル隊員たちがいた。
「本当に会話してる」
「神だ。神に違いない」
「可愛い……」
本日のレオノールは蔓を頑張って引っ込めており、銀色の髪は毛先だけ淡い緑色だ。金と緑のオッドアイも相まってどこか神秘的な雰囲気を漂わせている。服は白いワンピースで、襟元と裾には金のレースが控えめに存在を主張していた。
服を飾るためのレースや刺繍は、貴族から庶民まで金色を使うことは許されておらず、その色を使用できるのは金獅子のみ。レオノールの服に金のレースが使用されている意味を、ラプトル隊は正しく理解した。
余りの視線の圧力にレオノールはバンザイをしてアークバルトを待つ。すぐさま抱き上げられて顔を隠したレオノールはチラッとラプトル隊を見る。
顔面を蒼白にした彼らは揃って引きつった笑みを浮かべており、その中でも一際目を引く姿勢の良い男が一歩前へ出て来た。
「部下が大変失礼いたしました。私は隊長を任されておりますエルマー・フォン・ラブラトルと申します。皆、アクアネル公子とお会い出来るのを楽しみにしていたのですよ」
そこで漸く自分が"アクアネル公子"なのだと知ったレオノールは、皆=ラプトルだと勘違いしてニコッと無邪気に笑う。
「れおも らぷーとあそぶの たのしみ」
ラプトル愛か激しい彼らはレオノールの言葉に感激した。いくら軍で調教されたラプトルとはいえ魔物である。
城に勤める人間からは恐怖の目を向けられ、ラプトルが近付こうものならば悲鳴をあげて逃げ出される始末。レオノールのラプトルへ対する無垢な愛情に、その評価は上がりに上がりまくった。
「おお!そうでしょう。そうでしょう。今日は是非楽しんで行って下さい」
厳つい顔のエルマーも今日はデレデレだ。
その後、エルマーの言葉通りにレオノールはラプトルの背に乗って走ったり、狩りの仕方を教えてもらったりと1日を満喫した。
ちなみにアークバルトは始終ハラハラしっぱなしだった。




