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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
琥珀宮での日常
16/20

招待

 現在サイフィードは魔獣車に揺られていた。その手に握られているのはアークバルトからの招待状だ。


 ――怪しい


 それがサイフィードの正直な心情である。

 サイフィードが琥珀宮を訪れる度にさっさと帰れと言わんばかりの冷たい態度に、頑なにレオノールを抱っこさせない心の狭さ。レオノールが笑顔で自分を「にぃに」と呼べば、殺気混じりの視線を送ってくる。

 そんな男が招待状を寄こすなど天と地がひっくり返ってもあり得ない。


「もしや暗殺か」


 ハッとして外を見れば鬱蒼とした森が広がっている。魔獣車が通る道以外は何もなく、定期的に騎士たちが伐採作業をすることで、侵食してくる森から道を守っている。ちなみに庭師はいない。


「何で琥珀宮はこんな森の中なんだよ!」


 何と暗殺にうってつけなシチュエーション。

 疑心暗鬼になったサイフィードが挙動不審に視線を彷徨わせていると、音もなく魔獣車が止まった。

 さすがは宮殿の御者。揺れも全く感じない、と妙なところで感心したサイフィードが警戒しながら窓の外を覗けば、確かに琥珀宮が見える。

 暗殺ではなかったようだ。ちょっぴり……いや、かなり安堵しながら魔獣車から降りれば、バッタリとギルバートに鉢合わせた。


「そなたも呼ばれたのか」


 その手に持っているのはサイフィードと同じ招待状だ。


「陛下もですか」


 2人は長年連れ添った戦友のように、同時に琥珀宮へと目を向けた。


「一体何を企んでいるのやら」


「そうですよね!やっぱりそう思いますよね!」


 何となく親近感を感じてサイフィードは何度も頷く。


「ここに居ても埒が明かん。行くぞ」


「分かりました」


 1人ではなくなった安心感にサイフィードはギルバートの後を追う。決して離れない、と心に決めて。

 



 案内されたのは前庭にある東屋だ。ちなみに裏にある庭が裏庭で森にある小道より先のことを奥庭と言うらしい。聞いた当初、全く意味が分からなかったが、今でも意味が分からない。何だ奥庭って。

 サイフィードが思考の迷路に入りかけてきた矢先、「じぃじ!にぃに!」と嬉しそうな声が聞こえた。


「「レオノール!」」


 走り出したい衝動に駆られるが、そこには身分という高き山が存在する。

 まずはギルバートがレオノールを抱き上げチュッチュとキスをし、次いでサイフィードがほっぺにキスを落とす。当然ギルバートがしたのとは逆サイドだ。

 いつもならアークバルトが凄い目付きで睨んでくるのだが……今日はご機嫌に笑っており、更には「よく来たな」と歓迎の言葉をかけられる始末。一体何が起きたというのか。

 戦々恐々としながらもサイフィードは無難に挨拶をこなし、用意されていた席に着いた。


「ところで皇太子殿下、あのラプトルはどうしたのですか?」


 我慢できずにサイフィードは尋ねた。東屋の近くにさも当然のようにラプトルが鎮座しているのだ。気になってしょうがない。


「ああ、ギィのことか。あいつはレオノールの乳母だ」


「うば……」


 "うば"とは一体何だったか。サイフィードの頭が現実を拒絶する。彼の混乱を他所に、至って普通なギルバートが森へと目を向けた。


「そう言えば、ラプトル隊からラプトルが一体行方不明だと連絡があったな。その個体か?」


「知らねぇ」


「今頃山狩りをしている筈だが……後で確認してみよう」

 

 今確認してください!サイフィードはそう心の中で叫んだ。魔力の濃い右翼の宮殿近くの森には強い魔物が跋扈していると聞く。ラプトル愛の強い彼らは、今頃命懸けの戦いを繰り広げていることだろう。

 クアッと呑気に欠伸をするラプトルを、サイフィードは居た堪れない気持ちで見る。


 ――何も言えない僕を許してくれ。


 サイフィードは全てに目を瞑ることにした。そう、金獅子とは理不尽な存在なのである。


「まさかそなたから招待状が届くとはな。どういう風の吹きまわしだ?」


 ここでようやく本題へと入り、胡散臭そうなギルバートの態度がサイフィードの心を代弁してくれる。

 それに対するアークバルトは機嫌良さそうに目を細めると、レオノールを抱きしめた。


「レオノールが肉を食った」


「本当か!?」 


「口から食べたのですか!?」


 流石にサイフィードも驚きを隠せない。ここに来て半年以上、3人であれやこれや試したが今まで口を開けることすらしなかったのだ。一体どうやったというのか。


「見ればわかる」


 アークバルトが片手を挙げれば即座に食事の用意が整えられる。

 生肉が食べれないサイフィードにはサンドウィッチを。それ以外は全て生肉。普通の人間であれば気分が悪くなるような光景だが、サイフィードは慣れているので問題はない。

 レオノールが何を食べるのか分からなかったので、野菜から魚や肉、苔から毒草、内臓までありとあらゆるものを試したのだ。今更生肉など大したことはない。

 ドキドキしながらレオノールを見つめていると、アークバルトが肉に齧り付いた。


「???」


 ポカンとアークバルトを見る。レオノールに食べさせるのではなかったのか。自分が食べてどうする。期待した分だけ落胆が大きく、サイフィードの目は自然と険しくなったが、次の瞬間それも吹き飛んだ。

 アークバルトが口移しで肉を食べさせたのだ!


「給餌か!」


 ガタンとギルバートが席を立ち、サイフィードは驚きの余り椅子から転げ落ちた。 


「そういえばドラゴンが子育てする時に、子供へ餌を噛み砕いて与えると書いてあった覚えがあります」 


 何故今まで思いつかなかったのか!植物の特性が強すぎたために、レオノールがドラゴンの特徴を持っていることに気づかなかったのだ。


「次は儂の番だ」 


 意気揚々と肉を頬張るギルバートへ自然と恨みがましい視線が向く。生肉を食べれないことを今ほど悔しいと思ったことはない。

 ギリギリと歯を鳴らし、充血した目でレオノールを見つめていると、アークバルトの時とは違う反応を示した。嫌がるようにプイッと横を向いたのだ。

 拒否られたギルバートは絶望顔。その横では悪人面でせせら笑うアークバルトの姿があった。

 成程、これを見せるために呼んだのか、と遠い目をしたサイフィードは納得した。

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