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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
琥珀宮での日常
15/20

初めての食事

 スルスルと蔓を縮めながら帰って来たレオノールは、いつもの様にアークバルトに抱き上げられる。水気を魔法で飛ばしてもらい服を着る。

 ここまではいつも通りだったのだが……何か重大な決意をしたかの如く厳しい顔をしたアークバルトがレオノールの髪に触れてきた。


「キノコを髪から生やすのは止めなさい」


 アークバルトの手には例の毒々しい見た目のキノコが握られていた。


「きのこ メッなの?」


「言い難いが……レオノールには似合わねぇ。花にしとけ。綺麗な花がお前にはよく似合う」


 優しい手付きで銀色に輝く髪を耳にかけるアークバルトの姿は、まるで恋人を口説いているかのようだ。相手が幼児なので客観的に見ればただの変態だが。


「わあった」


 レオノールは素直に頷いた。大好きなアークバルトが嬉しい方が、自分も嬉しいからだ。

 クルルッと再び声をかけられ、レオノールは呼ばれていたことを思い出す。

 ラプトルは湖から離れたところに伏せており、その隣にはラプトルと同じ位の大きさの鋭い角を持つ鹿が横たわっていた。

 礼儀正しく、ちゃんとレオノールの縄張りを理解しているようで、ラプトルの好感度がグングンと上がっていく。


「クルルッ」と問われたので「ククッ」と了解の答えを返す。立ち上がったラプトルが鹿に食らいつき、バリバリと皮を剥いでいく。


「れお おりる」


 ラプトルの側に下ろしてもらい、豪快な解体ショーを見学する。フンフンと匂いを嗅ぎながらラプトルは柔らかそうな腹の肉を食い千切ると、今度はクチャクチャと咀嚼し始めた。


「何やってんだ?」 


 普段のラプトルは食事の際に皮を丁寧に剥ぎもしないし、食い千切った肉はほぼ丸呑みだ。おかしな行動にアークバルトが首をひねっていると、ラプトルがレオノールへと顔を近付けてきた。何かを促すように何度も何度も頬を突付く。

 その行動にレオノールが困った様に「クルクル」と鳴き、アークバルトを見る。


「おい、レオノールを困らせるんじゃねぇよ」


 レオノールを守る様に立ちはだかるアークバルトにラプトルは……口をカパリと開けて見せた。口の中にはグチャグチャに噛み砕かれた鹿の肉。

 ここでアークバルトは漸くこのラプトルが何かを伝えたいのだと分かった。ラプトルはアークバルトの横を通り抜けて再びレオノールの元へ行くと、顔を近付けてアークバルトをチラリと見た。レオノールもラプトルに合わせて口を開けてアークバルトに視線を送る。


 その瞬間、アークバルトの脳裏に天啓が降りた。


 レオノールは風のように攫われ、瞬き2つ分の間に琥珀宮の前庭へと降り立った。


「肉だ!最高級の肉を用意しろ!」


 そう叫んだアークバルトの急な要求にもバーニャとジルは澄まし顔。

 東屋にあるテーブルにサッと純白のクロスが敷かれ、様々な部位ごとに分けられた生肉がテーブルを猟奇的に飾る。


「Sランクの魔物の肉でございます。ところで、そちらのラプトルはレオノール様のご友人でしょうか」


 涎掛けを掛けられてアークバルトの膝の上に座ったレオノールが庭の一角に目を向ければ、何食わぬ顔で寛いでいるラプトルがいた。その姿からは、自分いつもここにいますけど、と言ったふてぶてしさが感じられる。


「俺の影に入って付いて来たんだよ」

 

 ギロリとアークバルトに睨まれてもどこ吹く風。度胸がいいのか図太いのか。分かっているのはこのラプトルがレオノールを守るモノだと言うことだけ。まあ、それだけ分かれば十分だが。


「ぎぃ いう。なかま」


 レオノールはニコニコとバーニャとジルに報告する。ここで初めてラプトルの名前が判明し、この瞬間からギィは琥珀宮の住人となることが決まった。

 

「よし、食うぞ」


 まるで死地に赴く兵士の様な緊張感に包まれた食事が始まる。ギィがわざわざ柔らかい肉を選んでいたのを思い出したアークバルトは、ヒレ肉を口に入れて何度も咀嚼する。

 そうして近付い来たアークバルトに、レオノールは小さな口を開ける。覆いかぶさるように口を塞がれて血肉が喉を通る。

 初めて感じた味はまるで熟成された美酒のようで、レオノールはハクハクと夢中で口を動かした。根で吸収するのとは全く違う満足感。


「もっと」


 レオノールが強請ればアークバルトは感動して目を覆い、レオノールはなかなか来ないお肉に抗議の意味を込めてその唇に噛み付いた。早く、早くと。

 そうやって食事をしていると二人の間にギィが顔を突っ込んでくる。


「クルクル」


「おい、邪魔すんなよ」


 鬱陶しそうにアークバルトがその顔を押せば、カチカチと牙を鳴らして威嚇する。


「たべるの メッて」

 

 レオノールの通訳にアークバルトの視線は自然とポッコリと膨らんだお腹に注がれた。


「お腹が苦しいのか?」


「くるしい なに?」


 サミシイ、カナシイ、ウレシイは分かった。それから先程知ったオイシイも。でも他の感情はまだ曖昧でよく分からない。

 困ったレオノールが見上げれば、アークバルトは大丈夫だと言うように頭を撫でる。


「無理しなくていい。体がおかしいと思ったら俺に言うんだ。そこから一緒に考えようぜ」


「ん」


 ホッとしてアークバルトに引っ付けば、温かくて心がムズムズする。そんなレオノールの額にキスをしたアークバルトはギィを見て告げる。


「今日からテメェはレオノールの乳母だ」


 名前 ギィ

 種族 ラプトル貴種

 性別 ()()

 魔法 影


 ギィはラプトル隊の問題児からレオノールの乳母へとジョブチェンジした。


 


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