ラプトルの問題児
デュオ・アムーレには3つの軍隊がある。
国軍、近衛隊、ラプトル隊だ。
近衛隊とラプトル隊は規模が100名前後と小さいため、軍の1つに数えられてはいるものの部隊扱いだ。トップも隊長と呼ばれている。
主戦力である国軍は文字通り国を守る軍隊であり、接近戦を得意とする第一部隊、魔術兵で構成された第二部隊、剣と魔術の両方を高い水準で扱う精鋭揃いの第三部隊に分けられている。
皇族を守る近衛隊は貴族のみで構成されており、どちらかと言えば実力より見栄えを重視している。そもそも金獅子に護衛は必要ないので、そんなものなのかもしれない。
最後のラプトル隊はラプトルを騎獣とする機動力に特化した部隊だ。実は宮殿を守っているのはこの部隊だったりする。何しろ魔の森と隣接していることもあり、敷地面積が無駄に広いので。
守っている本人たちも、何処からが宮殿で何処からが魔の森なのか分からないでいる。そのため森の中でも機動力に優れるラプトルを運用しているのだが……このラプトルと言う魔物は非常に癖が強かった。
高い知能とコミュニケーション能力に優れ、時には罠を張る狡猾さをも見せる。性格も凶暴で残忍。ハッキリ言って騎獣には向いてない魔物である。
それでも能力の高さから隷属の首輪を使って使役していた時代もあったが、ラプトルから落下した騎兵が後続のラプトルに踏み殺される、という事故が多発したために廃止された。
では何故今日までラプトル隊が存在しているのか。その理由はラプトルの仲間意識にあった。
一度ラプトルに仲間と認められれば、命がけで騎兵を救う忠義さを持っているのだ。
ラプトルは絶対に仲間を見捨てない。その確かな絆がラプトル隊にはあった。
ラプトル隊の朝は早い。
軽く餌を与えてラプトルを厩舎から解き放ち、彼らが遊んでいる間に寝床の掃除をする。ラプトルは匂いに敏感なため、必ずペアである兵士がしなければならない。つまり彼らに休みという概念は存在しない、と言うことだ。
ペアである兵士はラプトルが卵の時から生まれるまで片時も離さず、生まれてからは集団で子育てする親ラプトルの元へと子どもを運ぶ。ラプトル同士のコミュニケーションを学ばすためだ。
それ以外は常に一緒。
成体になるまでは自分の部屋で育て、一にも二にも三にもラプトル。ここまでくれば立派なラプトル馬鹿の出来上がりだ。
高給取りでありながら結婚できない部署ナンバーワン。振られる言葉は「私とラプトルどっちが大事なの」が定番だ。「ラプトルを愛する自分を愛してほしい」と、ラプトル隊の兵士は涙ながらに語ったという。
そんなラプトル隊には問題児がいた。
貴種――魔法を使える個体――として生まれたためにプライドが高く、ペアである兵士の腕を食い千切った存在だ。
ギルバートが殴って以来、大人しくしているもののペアは未だに決まっていない。
そんな訳で、その個体――ギィ――は自由に琥珀宮に程近い森の中を闊歩していた。
その日レオノールは、お気に入りの小道を湖に向かって歩いていた。当然1人ではなくアークバルトも一緒だ。
あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、知らない植物があれば吸収し、特に毒草には並々ならぬ興味を持っている。本能的に喰らえば強くなると知っているからだ。
レオノールは手に握った、如何にも毒持ってます!と言わんばかりのキノコを笑顔でアークバルトへと見せると、そのまま手の平から吸収する。
「それは……美味いのか?」
微妙な顔をするアークバルトに元気よく頷いてレオノールは次のターゲットへと近付いていく。ボコボコとした葉っぱを持つ毒草だ。それへ手を伸ばした瞬間、アークバルトに抱き上げられた。
「クルルッ、クルルッ」
近くで何かの鳴き声が聞こえ、ガサガサと茂みを掻き分ける音がしたかと思えば、目の前に知らない生き物が現れる。
光を反射しない真っ黒な鱗が隙間なく生え揃い、口はレオノールを丸呑みに出来るほど大きく鋭い牙が並んでいる。二足歩行で、発達した腕の先には鋭い鉤爪がナイフの様な硬質な輝きを放っていた。
赤い爬虫類特有の目とバッチリ目が合ったレオノールが「クルルッ?」と問いかければ「クルルルルッ」と応えがあった。
「パパ、なかま いた!」
興奮して身を乗り出したレオノールを落ちないようにとナカマが支えてくれる
「バレンシアガの血か」
思案深気なアークバルトの声はレオノールには届いておらず、クルクル、クルルルルっと会話が弾む。やがてクルッと高く鳴いたラプトルにバイバイと手を振って、レオノールは小道の先を指差した。
「みずーみ いく」
湖に到着すればアークバルトが服を脱がしてくれる。もう湖に突進しても止められることはない。
レオノールは湖の中心で蔦を伸ばす。生き物は1つもいない。最初に来た時、レオノールが全て食べてしまったからだ。
何の音もしない。この静寂が好ましい。
暫くするとクルッと声がし、レオノールはアークバルトの元へと戻って行くのだった。




