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金の獅子と銀の竜  作者: じゃっすん
悪夢からの解放
10/20

悪夢

 アークバルドは鏡に映った自分を見つめた。

 黒を基調とした服に散りばめられた金の刺繍が重くなりがちな雰囲気を豪奢に飾り、整えられた炎のような金と赤の髪も今日はいつもより大人しい。肩へと止められた深い紅のマントは光沢を放ち、控えめに自身の存在を主張していた。

 金の目は鏡越しの自分を鋭く射抜き、服越しからでも分かるぶ厚い胸板は遠目からでも鍛え抜かれていることが分かるだろう。正に美丈夫。その名に相応しい佇まいだ。


 ふっとアークバルトの顔が緩む。

 鏡越しにレオノールと目が合ったためだ。振り返ってレオノールを抱き上げたアークバルトはコンツと額をくっつける。


「レオノール、いい子にしてるんだぞ。パパは大事なお仕事があるからな。今日は先に休んでいろ」


 蔓が行っちゃ嫌だと言うようにアークバルトに巻き付き、レオノールはマントを握りしめる。


「レオノール様、大丈夫ですよ。私どもがお側におりますから」


「そうですよ。昼は木ノ実を拾いに行って、夜は絵本を読みましょう。レオノール様がお好きな"冠を拾ったカラス"のお話はいかがですか?」 


 一月前にレオノール付きとして連れてこられたアークバルトの眷属たちだ。双子の姉弟で、姉はバーニャ、弟はジルと言う。

 双子に宥められてレオノールは渋々アークバルトを離した。レオノールも大切な用事があるということは分かっているのだ。

 そのままジルへと手渡されたレオノールはバイバイ、と手を振る。


「行ってくる」


 レオノールを優しく撫でたアークバルトは、バーニャから黒い手袋を受け取りその手に嵌める。

 颯爽とマントを翻すアークバルトだったが、一歩踏み出すたびに振り返る姿は颯爽とは言い難く、どう見ても未練たらたらであった。





 初めてアークバルトがいない日、レオノールはどう過ごしていいか分からなかった。いつもなら抱っこされて色々と話しかけてくれるアークバルトに相槌を打ったり、蔓を動かしてコミュニケーションを取るのだが今日はそれもない。

 「抱っこいたしましょうか?」と尋ねるバーニャに首を振って断り、レオノールは寝転がって根っこを張る。

 こうしていると、まるで1人ぼっちに戻ってしまったかのように感じる。目を閉じれば、そこがかつて居た無機質な白い部屋のような気がして慌てて目を開けた。


 ――サミシイ


 レオノールの心にまた1つ感情が芽生えた。

 結局その日は一日中そこから動かず、日が暮れる前に回収されてお風呂に入れられた。

 ベッドの中で約束の絵本を読んでもらっていると自然と目が閉じてくる。アークバルトが帰るのを待っていたいが、レオノールはまだ夜遅くまで起きていることが出来ない。

 絵本そっちのけで暫く眠気と格闘していたが、やがてレオノールの意識は暗い闇の中に落ちていった。





 レオノールの目の前には鉄格子があった。

 白衣のニンゲンたちが忙しなく動き回り、時折レオノールを観察しにやってくる。ぼんやりとその様子を眺めていたレオノールの前に不意に黒い影が現れる。ソレはレオノールと同じ大きさをしており、影に浮かぶように金と緑の光が灯る。


 ――喰ラエ


 ソレに呼応するようにレオノールの蔓が動き出し、白衣のニンゲンを絡めとると、根がニンゲンの皮膚をプツリと貫きチュウチュウと血を啜る。やがて干からびたニンゲンであったモノをポイッと捨ててレオノールは"モット"と願う。


 ――喰ラエ


 言われるがままレオノールは喰らう。

 泣き叫ぶニンゲンたちを感情のない目で見つめながら、モットモットと際限なく。


 ――喰ラエ


 更にレオノールは蔓を伸ばす。喰らうため。生きるため。

 やがて満足したレオノールが足元を見ると夥しい数の死体が積み上がっていた。その中に見慣れた色を見つけた――金と赤の炎のような髪だ。

 虚ろに虚空を見つめるその金眼はもう何も映さない。レオノールを見ることも笑いかけることもない……永遠に。

 レオノールの体はガタガタ震え、うまく息ができないのか酷く苦しい。

 

 ――喰ラエ


 再びあの声がする。

 自分の意思と裏腹に蔓が勢いよく伸びてアークバルトの体に絡みつく。イヤッ!イヤッ!そう思っても蔓は言うことを聞かず、その体に根を張り巡らせる。駆け寄ったレオノールが引き剥がそうとするが蔓はびくともしない。

 シワシワに干からびた大切な大切なカゾクが手の中で崩れていくのを見てレオノールは壊れた。






 アークバルトは建国祭パーティーの真っ只中にいた。こういった公式行事のパートナーは異母妹であるマリアベルだ。ギルバートにはアマンダがいるため消去法でこの組み合わせになっている。ちなみにクロノスはレオノールと同じ3歳のため欠席である。

 マリアベルも好きな人以外と結婚するつもりはない、と公言しているので相手がいない現在、お互いに助かっていると言える。


 アークバルトに挨拶できる貴族は伯爵まで。残りは紹介に預かるか、こちらから声を掛けるかしか繋がりを持てる機会はない。

 そんな訳で、久しぶりに公式の場に顔を出したアークバルトの関心を引こうと、貴族たちはあの手この手で話しかけて来るが、アークバルトも負けてはいない。人を寄せ付けない冷たいオーラと鉄壁の無表情でそんな貴族を蹴散らしていく。

 それにもめげずに突進してくる貴族たちの心臓は鋼で出来ているにに違いない。中には娘を紹介しようとする猛者も見える。


 機嫌が下降の一途を辿るアークバルトを横目に、マリアベルは柔和な笑顔でそんな貴族を捌いていく。

 あれよあれよと言う間にお帰り頂く、その手腕は流石デュオ・アムーレの外交を一手に引き受けているだけのことはある。まあ、本人に言わせれば夫探しの一環らしいが。

 ちなみにマリアベルは御年80歳。ハッキリ言って男を見る目は相当に厳しい。アークバルトは自分のことを完全に棚に上げて、結婚は無理ではないかと思っている。

 そうしてようやく群がってきた貴族たちを捌き切った束の間の平穏に、珍しくマリアベルが話しかけてきた。


「そう言えばお兄様、アクアネル公爵の弟君を引き取ったそうですね」


「何だ、文句でもあるのか?」


「いいえ、少し安堵していますの。お兄様は誰にも関心がなかったでしょう?」


 公式の場でしか会わないような、薄い関係の異母妹の言葉をアークバルトは意外に思う。


「落ち着いてからで構いませんの。1度その子に会わせて下さいませんか?」


 落ち着いてから……その言い回しにマリアベルもある程度の情報を得ているのだと知る。アークバルトは少し考えた後、言葉を返す。


「レオノールが嫌がらなければ構わねぇ」


「あら意外ですわ。断られると思っていましたのに」


「本当なら誰にも会わさず閉じ込めておきてぇが、大きくなればそうはいかねぇからな」


「思った以上に重症でしたわ。ですが……相手の気持を慮ることができるのなら大丈夫そうですわね」


 普段なら問答無用で会話を打ち切るアークバルトだったが、不思議と今日はそんな気にならない。扇を広げてクスクスと笑うマリアベルに、どうも調子を狂わされて舌打ちを放つ。


「いつからそんなお節介になった」


「最初からですわ」


 ポンポン、と言い返してくるマリアベルの態度は小気味いい。今までは何の興味も持てなかった異母妹だったが、これもレオノールが与えた変化なのだと思えば受け入れられた。

 アークバルトが何か言い返そうとした矢先、バーニャから連絡が入った。


『アークバルト様!レオノール様のご様子が……きゃああああ!』


 爆発的に高まるレオノールの力を察知したアークバルトは、人目も気にせず片翼の元へと駆け出した。

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