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極・極短編集  作者: Avoid
7/15

 愛に触れた。


 色んな愛に触れた。最初は『おはよう』だとか『おやすみ』だとか、次に触れたのは、『いただきます』とか『ごちそうさま』とか。


 あり得ない程に溢れる愛が、この世界には満ちていると知った。


 そして今日もまた、私は愛に触れる。


 ――まずは「おはよう」と言ってくれる友人クラスメートに会った。


 私も同じく、

「おはよう」

 と言ってみれば、すこし心の温まる感覚がすると同時に、にこっ、と自然に笑みが漏れることを知る。


 つられて彼女も、にこっ、て笑うのだから、ほのぼの、愛に満ちている。


 すると突然、ごめんね、と手で申し訳なさそうな感じを表現した彼女は、「ウチ、昨日学校休んじゃったからさ、あとでノート見せてくんない?」と。


 ぜんぜんいいよ、もちろんいいよ、大丈夫だよ、色んな言葉があるけれど、私は、

「うん、分かった」

 なんて洒落たような言葉を使ってみせた。


「ありがとっ!」


 やっぱ憂は優秀だよねー、とか云々。


 言いたいことだけ颯爽に言ってしまうと、彼女は風よりも早くどこかへ走り去っていった。


 まるで嵐のような人である。


 ぼんやりとあの子が消えていった方角を眺めて、そういえばあっちの方角は学校とは関係のない方角だけれど、なにか私の知らない近道でもあるのかしら?なんて思いつつ、あれからさらに数十分余歩いたところで、ついに見えてきた、学校。


 キーン、コーン、カーン、コーン、という鐘の音を屋内で聞いた後に待っているのは、俗にいう、ホームルーム、というやつで、まずは最初に愛拶から始まる。


 クラスメートの一人が、「起立、礼、おはようございます!」と元気よく言い、それに続いて私たちも

「「おはようございます」」

 と声を大にして言うのだ。


 みんな「着席!」という声が掛かるのを今か今かと待ち望み、むしろ、それよりも早く腰を下ろしている人だって何人か見つかるのだが、ついぞその号令が聞こえた暁には、ぞぞぞ、と音が立つほどの勢いで座るのである。


 もちろん愛拶が嫌いとかなのではなく、みんなこうやって毎日していると、だんだん惰性的になってしまったりとか、どことなく、心を忘れてしまったりして、そんな日がいやにいやに続いているし続いていくと思えば、たったこれだけのために起立だの礼だのをしたくない、と思うのもある種当然のこと。すこし気怠げに見える前の人たちの背中は湾曲的で、こういってしまっては悪いけれど、なんかゾンビみたいだ。


「……えー、今日はいつもより寒い日とあって、あさ目が覚めたら家内が具合悪そうにしていてですねー、」

 と。みんなが席に座ったのを確認するや否や、黒板の前に立った先生が聞いてもいない身内話だとか直近の出来事だとか、最近あった嬉しいことだとかを話し始めるのは、もはや愛拶と起立と礼の次ぐらいに恒例となっている。そして、最後にその話が終われば、終わったからこれでちょっと解放されるのかなと期待させつつ、本日の連絡事項がどうのこうのという話をして、気が付けば誰とも話す暇なく授業の時間になるのだ。


 でも、それってとても悲観的に物事を見た場合のことだけであって、じっさいには、私たちのことなんて無視でもして勝手にパソコンとかスマホとか、どうせ先生は持っているのだから好きに操作して授業の時間まで暇つぶししていてもいいのに、なんとなく、毎日々々すこし違った話題、それも、特に昨今は厳しそうなプライバシーに関する話を、たくさん言ってくれるのである。


 これって愛なんじゃないかな、しなくてもいいのに結局してくれるのって愛なんじゃないかな、って、なんとなく感じた。


 ――さて、じゃあまあ、これで今日のホームルームを終わります。


 気が付いたら先生の話は終わっていたけれど、思ったより、私たちって愛されてるんだなって考えれば、この時間が学校生活のなかで一番好きなものだったりする。

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