呪われた子
彼女は今日も、自室に閉じこもっている。
それというのもある日、とある地方からやってきた男が、
「この国の王女様は一ヶ月ほど公に姿を見せていないそうではないか」
と不思議そうな眼で酒場の嬢に言ったもので、
「お客さん、物知りなんだねぇ」
と、嬢は驚きと共に何も伴わず話題を切り抜けようとするが、
「いったい、王女様に何があったというのだ?」
と、嬢に粘着するような形で情報を嗅ぎ集め、いざ、「ここだけの話――」と大仰な前振りのもとに、
「王女様ってば、なんでも御外にある御日様とかの光に滅法弱いらしく、日中はカーテンも閉め切って完全に光から遮断されないと生きていけない状態にあるんだって」
と意味の分からない話を聞かされたもので、思わず、
「なんだそりゃ、まるで聞き分けの悪い子どもが考えた言い訳じゃないか!」
と、発破をかけるとき以上に大きな声で叫んでしまったものだから、「しーっ!」とすぐさま嬢に注意された後、
「どこで誰が聞いてるか分からないからあまり言えることでもないけど、噂では、王女様の悪口を言ったり変な話を広めたりした人が突如行方不明になる事件が多発してて、さらに、その噂が民衆にも広く伝わってきた頃、ついには街中で行方知れずになってた人の死体が発見されるようになってきたの」
と随分なことで脅され、さすがの男としても命が惜しく、
「それはすまなかった!」
と、またしても酒場中に響き渡るような魂からの叫びで謝罪し、天をも仰ぐ気持ちで居た堪れなくなるのだから、
「ぷっ――あはは!」
と嬢は我慢できずに笑い転げ、それを訝しげに思った男が恐る々々、
「なにが可笑しい?」
と聞けば、
「だっ、だって――ぷっ、あはははは!」
と、声を出すにも狂しいような様子で、ようやく、「はあ……」と嬢が落ち着きを取り戻した頃に、「だってさあ」と今までの畏まった物言いから外れ、
「こんなの嘘に決まってるじゃん!」
と、
「そんなことしてたら王様の権威も落ちぶれて、反逆者だらけのどうしようもない国がたった一人のかよわあい王女様によって誕生することになっちゃうし!」
と、驚愕の事実を男に告げ、たった一人の酒場の嬢にこんな面目を潰されるかのような事をされたかと思えば、
「お前、ふざけるなよ!」
と男も憤慨で、あっと言う間に酒場は混沌とする戦場へと変わった。
そして、このような惨事が彼女の耳に入る為に、今日も今日とて彼女は耳を塞ぎ、誰から言われたかも分からない“呪い”の事を激しく呪うのである。




