こころおもう
すべてがいやで、仕方なかった。
こころの奥深くに渦巻くどす黒い感情が、されど心地いい、と感じてしまって、いやでいやで仕方がなかった。
私のこころにはぽっかり穴が空いている。私にとって人生は悪夢に生きるかのようで、まわりにいる人みんな、鬼とか悪魔とか、わるい存在に見えている。
どうしても、そう、なんだか上に下に見られている気がして、落ち着かない。私をゴミのように見下す人もいれば、どうにか、ほかの燻る宝石たちのように光るものを見つけようとして、付きまとう人もいた。
私には妹がいたのだけれど、いつも、毎度のように比べられて、それが、とてつもなくかなしくて。やれ、お前にはできない。やれ、お前は劣っている。やれ、年下に負けて恥ずかしくないのか。やれ、やれ、やれ。なんでもかんでも背を比べるみたいに、私が劣っているからって、いつもいつも鬱陶しい。
なにが、そんなに劣っていたのか。なにが、そんなに気に入らなかったのか。私は、道端に落ちているゴミのように、縮こまって、あなたたちにはなにも、していないというのに。ありんこより小さく、群れもなさずにたった独りでいただけだというのに。
ああ、そういえば。むかし、となりに住んでいたおじさんが私のことを、『へんに綺麗でかわいんだから、ありゃまるで、埃の被った宝石だな』、と言っていたのを思い出した。
当時の私はすこしお馬鹿さんで、まだ小さい小さい学生であったから、どうしてもなにを言っているのか分からない。いまの小さい学生さんなら、分かるのかもしれないけれど、むかしの世界はひどくひどい有様で、どうしても、いまみたいにお勉強ができなかったのである。だから、まだ小さい学生さんになって最初の年。あのときの私にはちょっと、むずかしいお言葉だった。けれど、かわいいとか、きれいとか、簡単でなんども聞いたことのある言葉は知っていたものだから、私、浅ましいことに喜んじゃって。お母さまとおじさんとの会話を、毎日々々盗み聞きしていた。ほんとうに、ほんとうに。
こころは尊い。こころは美しい。こころは儚い。こころは、ガラス細工のようですぐひび割れてしまう。そしてもう二度と修復できないぐらい粉々になって、やっと、たいへんなことをしてしまったと気付く。もしかしたら、とても大切なものを失ってしまったと、考えてくれるかもしれない。――私のこころにはもう、穴が空いてしまったけれど。
寂しい。寒い。独りでいることの悲しさが身に染みてしまう。虚しい。空しい。誰も私を彩ってはくれない。外の世界はあんなにもカラフルだというのに、なぜ、私だけモノクロなんだろうか。
※見やすいように空行を追加し改稿しました。