キリギリスとエベレスト
地球が温暖化した昨今、昔よりもずうっと長く夏が続くようにはなりましたが
それでも巡る季節のことわりは健在で、夏が終われば秋となり、秋が終われば冬が来ます。
夏の間、楽しく遊び呆けていたキリギリスは冬になると食べ物に困るようになりました。
昔のキリギリスはこんな時、働き者のアリに慈悲を乞い助けてもらうことが出来ましたが
昨今のアリは自己責任論というやつが大好きで、自業自得とキリギリスの飢える様を見世物にして楽しみます。
「どうして助けてくれないんだ兄弟。慈愛の心はどこにいった」とキリギリスは憤りますが
「これが現代というものさ。働かない者に生きる価値などありはせん」とアリたちは石を投げつけ追い返します。
キリギリスはアリの仕打ちに大いに怒り、大いに悲しみましたが、やがて全てがどうでもよくなりました。
「何だか馬鹿らしくなってきた。このままでは俺は死んでしまうが、それがどうしたというんだろう。
考えてみればどんな生き物もいずれは死ぬんだ。あんな嫌なやつらに頭を下げてまで生きる必要はないだろう」
そう考えた途端、キリギリスの心をおおっていた重苦しい暗雲はすうっと消えてゆきました。
「さて、どうせ死ぬなら最後に何かでかいことをやりたいな。
そうだ、以前に鳥たちが噂をしていたな。はるか向こうにエベレストという世界で一番高い山があるとか何とか。
ここは一つ、その山の天辺まで行って、人生最後の大冒険と洒落込もうじゃないか」
冬山の厳しさを少しでも知る者ならば、こんな馬鹿な考えはすぐに捨てるでしょう。
ましてエベレストは世界で一番高い山なのです。
けれどキリギリスは山に登ったことはなく、危険についてもよく考えない性格でした。
それが彼の短所であり、長所でもあるのです。
エベレストに登ると決めたキリギリスですが、彼は生来の遊び人で怠け者です。
麓から天辺まで真面目に登ろうなんてことは最初から考えませんでした。
キリギリスはエベレストに向かう代わりにアメリカ行きの飛行機に忍び込み
それからニューヨークに住む大富豪へ会いに行きました。
大富豪は突然現れたキリギリスの提案を面白がり
翌日の予定をキャンセルするとキリギリスと共にプライベートジェットに乗り込みます。
機内で豪華なランチを楽しむ間にネパールへ到着。今度はヘリに乗り換えます。
その日は天候に恵まれて、吹雪など影も形もありません。
二人の乗ったヘリコプターは快適に空を飛び、やがてエベレストの山頂に到着します。
世界一高い山に登頂した大富豪とキリギリスは写真を撮ってSNSにアップしました。
この写真は大いにバズり、キリギリスは一躍世界的な人気者になりました。
もう食べ物に困ることなどありません。
何もしなくても世界中のファンがキリギリスに食事を届けてくれるからです。
アリたちは地団駄を踏んで悔しがりました。
「こんなのおかしい!!どうして働き者の俺たちよりもお前の方がいい暮らしをしてるんだ!!」
キリギリスは勝者の笑みを浮かべて答えます。
「これが現代ってやつだよ兄弟」




