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魔法少女を殺すおしごと  作者: 月とすっぽんぽん
一章:いたいのとんでけ
20/24

16

 校舎を叩き折った漆黒の巨腕が消失する。黒い塵粉が舞う中、其れを切り裂きながら巨大植物の蔓が乱舞する。被弾を避けるために俺は恒常術式を右脚に集中、後方に大きく跳ねて回避。


「いいぃぃぃぃ……いっだいなぁぁぁぁ……!」


 怨嗟の声と共に突風が吹き荒れる。粉塵の中から姿を現した魔法少女は、まさに異形という形容が相応しい異相へと変貌を遂げていた。


 俺の発現させたアラミド繊維によって失われた四肢を、魔素ではなく植物召喚の術式により直接再生したらしい。二の腕や腿の断面から、薔薇の蔓が連なって触手のように禍々しい手足を形成している。

 纏う衣装はズタボロで、ほぼ裸に近い。まろび出た内臓を適当に仕舞って乱雑に修復したのか、白い肌に無数の傷跡が走っている。顔面は皮膚がまだ再生されておらず、人体模型の如く皮下神経が丸出しだ。


 そして、背中には一対の翼を備えていた。巨人の掌にも見える細く歪な深緑の大翼が、肩甲骨の辺りから飛び出している。それをはためかせて、彼女は校舎が崩壊した空中に静止していた。


「わっ私をきき傷つける奴は全員しし死ね! 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!」


 再生が不完全な舌によって吐き出された憎しみの声と共に、魔法少女が両の手を俺に向かって突き出す。その手を形成していた植物に魔法陣が灯り、一瞬で膨張。先端が凶悪に尖った緑の波濤が放たれる。質量は恐らく数百トン、緑色の殺意が群れた津波だ。


「うっせぇな! 世の中、傷一つなく生きている奴なんて居やしないんだよ!」


 叫び返し、俺は大気の組成に干渉。レベル6魔法術式【大愚連螺旋突】で錬成する巨大ドリルを四重展開。普段はこんな無茶すれば脳神経が爆散して即死する、レベル7の恩寵ありきの力押しだ。

 タングステンハイス鋼によって形成された漆黒の螺旋円錐が、計四本。魔素により動力を吹き込まれ駆動を開始した漆黒の暴威が、深緑の殺意を迎撃する。


 耳をつんざく駆動音、もはや炎にも近い量の火花が滂沱と流れる。タングステンの凶器が殺到する樹木を次から次に破砕し、咬み千切っていく。断裂した植物が無惨に宙を零れていき、量子分解し魔素へと還っていく。 


 俺の側面に、魔法少女が高速で接近。翼を使って空を疾駆、俺の視界はドリルと植物で塞がれていた為隠れ蓑に使われた。少女は植物で象られた触腕を俺に翳す。神経が露出した顔面には、泣く前の子供のような悲痛な表情。


「『私』が傷付くから、『私』が辛いんだ! 他の奴のことなんて知らない!」


 泣き声にも近いヒステリックな叫びと共に、少女の両腕が膨張していく。この至近距離での質量攻撃は避けきれない。


 だが、想定済みだ。


「……それは、お前を傷つけて奪ってきた奴らと同じ理屈だろうが」


 視線と思考を疾らせる。大気の組成に干渉し、八割近くを占める窒素をタングステンへと変成し凝集させる。全長四メートル、全高一・五メートルに及ぶ漆黒の巨拳を一瞬で作り上げる。更に人間で言うところの手首に相当する部位に噴射口を生成、魔素を動力として噴射させる。

 秒速五◯◯メートルの加速度を持つ、自翔式巨拳——男の浪漫その二、ロケットパンチを喰らいやがれ。


 魔素を噴出させながら黒光りする塊が疾走、一瞬で最高速度に到達。発動直前だった魔法少女の植物召喚術式を容易く押し潰しながら蹂躙し、そのまま柔肌に着弾。尚も魔素の噴射は続行し、少女を圧壊しながら飛翔。


 轟音を響かせ地面を削りながら、ロケットパンチはまだ残っていた校舎の残骸に衝突し、爆散する。漆黒の瓦礫が飛び散って放物線を描き、黒塵が濛々と立ち込める。

 魔法少女へのダメージにより、俺に殺到していた植物の波濤が量子分解し消失したのを確認。俺も四連巨大ドリルを解除し、タングステンハイス鋼が大気へと還っていく。


 ロケットパンチが衝突した地点に、ダメ押しとばかりにウィルヘルムのプラズマ球射出術式と、花乃の爆裂術式が連続して殺到し、着弾。爆裂と爆風が吹き荒び、熱波が俺にまで押し寄せる。それはまるで破壊の嵐、校舎の瓦礫を爆散させて地面に大穴を穿つ。


 破壊が止み、粉塵が去ると、右手以外の手足を失った魔法少女の姿が見えた。腰から下の下半身は消失しており、胃や腸といった臓器が露出し断裂して血液を噴出させている。それでも少女は右手の力だけで地面を這いずり、俺へと近づこうと足掻いている。

 彼女が顔を上げる。顔面の左半分が吹き飛び、断面が露出。破砕された頭蓋と脳漿が見える。残る右目も眼窩から溢れ、視神経で辛うじて繋がりながらぶら下がっていた。


「ううぅぅぅ……ああぁぁあぁああ」


 少女の口から漏れる、もはや人語を成してはいない怨嗟の声。左肩断面から突き出る折れた骨に植物がまとわりつき、尚も彼女の体を再生しようとしている。

 いったい、どんな執念が彼女を突き動かしているのか。それとも先ほど語られた、『おともだち』とやらによる呪いに近い恩寵の賜物なのか。どちらにせよ、俺には理解が出来ない。背筋を冷たい汗が伝うのがわかった。

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