表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

序章

悪行と罪科、増悪と邪悪に満ちたこの世界で

死を望む少女と海賊の運命の物語。


このお話には暴力や残虐な描写、性的描写が含まれます。苦手な方はご遠慮下さい。

 

 "死にたい"と思う。

それはふとした瞬間にやってくる。

ご飯を食べてる時、湯船に浸っている時、眠りにつく前。

カメラのフラッシュのように一瞬だけれど、それは確かにやってくる。

別に死を切望するほどの、耐え難い苦痛に苛まれているわけでもないので、これはただの簡単な算術に過ぎないのかもしれない。

2-1=1の様に、生きる理由がないから死にたい。

私の脳内の無意識の領域が、勝手にそう計算して、この答えを出しているのだろう。

だから、この感情が頭をかすめるたびに

私はびっくり箱でも開けたみたいに、ビクッと体を震わさずにはいられないのだ。


 私は物心がついた時にはもう、この島に住んでいた。

島には、海岸に沿って見上げるほどの大きく競りたった黒岩が、その岩肌に海藻や木屑をべっとり着けながら、隙間なく整列している。

この黒岩の行列は島をぐるっとひと回りして、鉢合うところには幅200m、高さが黒岩ほどある、巨大な木造の扉がたてつけられている。


この扉は島の唯一の出入り口で、漁船や商船が来航した時のみ、開錠されるのだ。


もちろんこれらは全て人工物。

この辺りの海は気性が荒く、天候問わず、まるで小山の様な波が絶え間なく打ち寄せる。

大口を開けて島を飲み込もうとする海から身を守るために、先住民達が島の山を打ち砕き、この堤防を完成させたのだった。


私は黒岩の隙間から海をチラッと垣間見たことがある。けれど、まるで洗剤をこぼしたようなボコボコとした、白い泡が見えただけで、それよりも岩の向こう側から聞こえる、おぞましい咆哮に全身の毛が総立ち、寸時もその場にいられなかった。


 こういった土地事情もあり、年々人口が減って、今では島のあちこちで、草木に侵食された廃墟が主人の留守を物悲しげに語っていた。


そんな荒れ果てた島の中に、パッと人目を引く赤レンガ造りの艶やかな洋館が佇んでいた。

草木のアーチに迎えられ、ひと度その門をくぐれば、視界いっぱいに広がるアイリスの花。

島の生気を吸い付くしたかと思われるほどに、その館だけは活気に満ち満ちていた。


 私はその館に住んでいる。

どこかの商人が持ち寄った、淡い若草色のフィッシュテールドレスを身に纏い、本を片手にバルコニーで読書にふける、文学お嬢様ーーーのお世話役。


一概に世話役といっても、私はこの家の養子なので、サナお嬢様とは義姉妹になるのだけど。


 荒れ狂う海に囲まれたこの島で、私は今日も水がとっぷり入ったじょうろを持って、サナさんのいるバルコニーにむかうのであった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ