最終話:赤い悪魔と呼ばれて。
平民である、ただのエリーザ。
モゼッティ男爵家になぜか住んでいただけ。
外から見れば、そういうこと。
それなのに、ほぼ意識不明で寝たきりが続いているモゼッティ男爵の資産を好き勝手に使っていた、平民。
「は?」
「貴女ね、犯罪者なの」
くすくすと笑いながら話しかければ、完璧な悪役令嬢の出来上がり。自ら演じておきながらなんですが、なかなか堂に入った悪役ぶりだと思います。
「しかも、不当な理由で辺境伯を監禁していたそうじゃない?」
「不当ですって? あの男は難民保護とかなんとか言って、私財をつぎ込んで辺境を貧乏にするのよ! 貴族なのに毎日毎日パンとスープくらいしか食べれなくなるの! 馬鹿じゃないの!? そんな生活嫌よ!」
「エリーザ? 父上が今後保護する難民の中にスパイがいて、私が殺されるから、と言ったのは?」
「…………そのパターンもあるよ。だから信じてちょうだい」
そう言った瞬間、エリーザ嬢の瞳が右上をちらりと見たあと、視線がすっと床に落ちました。
――――あぁ、これは。
「嘘、ですね?」
「っ!?」
「なるほど。貴女は数人限定で未来予知のようなことも出来はするものの、嘘も織り交ぜて自分の都合のいい流れにしているのですね?」
「エリーザ…………?」
ロラン様が戸惑ったようであり、悲しそうな表情でエリーザ嬢を見つめていますが、エリーザ嬢は怒りを露わにしてこちらを睨みつけるばかり。
「私には、貴方がたを裁く権利も権限も権力もございません。なのでここからは国王陛下にお願いしてもよろしいでしょうか?」
国王陛下の方を向きカーテシーをしました。
「んー。はいはい。じゃあ、エリーザ嬢は幽閉。ロランの処遇はグレゴリオに任せる」
グレゴリオ様――辺境伯は既に救出しています。こちらでロラン様の処遇を決めるか確認しましたが、監禁されていた間に滞った仕事をしたいとのことで、彼の意志を尊重することになりました。
エリーザ嬢はこの直後から尋問も始まる予定です。知っている未来は、全て話させる。嘘か真実かは分からないが、知っていると知らないでは違うとのこと。
ただ、彼女から出てくる情報はかなり限定的なもののようなので、情報の扱いは国というよりは各個人の判断に任せることになりそうだというのが陛下とノルベルト様の見解でした。
「さて、邪魔な二人はとりあえず退場してもらって――――」
陛下のその言葉で、ロラン様とエリーザ様が騎士たちに連れて行かれました。赤い悪魔だなんだと罵詈雑言が飛んできていますか、するっとスルーしておきます。
「せっかく集まってくれたからね、ついでにで申し訳ないが、息子の婚約を発表させてもらうよ」
「「は?」」
予定にない陛下の行動に、私もノルベルト様も本気で困惑してしまいました。
このあとは陛下の挨拶で解散する予定では!?
「私の婚約? 誰とですか?」
「そういうボケはいらないよ?」
陛下がほのほのと笑っています。いつもは暖かな気持ちになるのですが、今はちょっともやっとしてしまいます。
「君たち二人に決まっているだろう? ねぇ?」
陛下がそう言って視線を向けた先にいたのは、なにやら不穏な空気を纏った白い紙を持ったお父様と、にこにこしているお母様。
「その紙は――――」
「書いちゃった!」
「お父様…………」
お父様がペラリとこちらに見せてきたのは、『婚約証書』。しかも、またもや陛下のサイン入り。
客席からは拍手の嵐。と、カッサンドラ様の「結局、私の注文ってどうなるのよ?」という不穏な声。
ちゃんと作成してます大丈夫です。ありがとうございます。いえ、私どもも寝耳に水と言った状態でして。あ、はい、その一応愛し合ってはいますので、はい、大丈夫です。あ、はい、ありがとうございます。大丈夫です、今後も生産は続けますので。あ、はい、次の注文ですね――――。
陛下とお父様の暴走のおかげで、ホッとする暇も、しんみりする暇もなく、断罪劇が終了しました。
◇◆◇◆◇
高らかに鳴る教会のベル。
空を舞う花びらと白い鳩。
バルコニー下には、たくさんの人。
「まさか、あれから二ヵ月でこうなるとはな」
「予想外すぎますね」
善は急げ、と王族の歴史上最短の婚約発表からの結婚式。
バルコニーで二人並んで、集まってくれた国民への顔見せ。
「さて。やるか」
「そうですね」
この国では王族が結婚した際の恒例行事があります。
それは、バルコニーでの誓いのキス。
「他人のキスシーンを見て楽しいのでしょうか?」
「さてな」
妙に勝ち気な表情で笑いながら、ノルベルト様がお顔を近付けてきました。
――――ちゆ。
ゆっくりと柔らかく触れる唇。
「…………まぁ、他人じゃないが、人前でキスして少し照れる妻の顔は、見てて楽しいな」
「っ!?」
ノルベルト様の爆弾発言のせいで、ちょっと恥ずかしいなと熱を持っていた顔が更に熱くなりました。
絶対に真っ赤です。
五ヵ月ほど前のとある日、私の人生は劇的な転換期へと入りました。
婚約者に『赤い悪魔』と呼ばれ、一方的に婚約を破棄され、失意のどん底に落ちかけましたが、なんだかんだで今はとても幸せで――――あ、はい、注文の品は明後日から着手しますから大丈夫です。大丈夫ですからバルコニーにまで乗り込んで来ないで下さいカッサンドラ様っ!
―― fin ――
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コロナで一週間隔離になった笛路でしたー♪←




