24:ただのエリーザ。
いくら凄かろうと、人々は引く。
本人が高飛車かつ傲慢であればあるほどに。
「でも、不思議なんですよね」
「何がよ」
「貴女の予言めいた言葉の数々って、特定の男性のことばかりで」
「だから、何よ?」
「人々が知りたいのは、未来の天災や国勢ではなくて?」
「…………」
そう言うと、エリーザ嬢は不貞腐れたような顔に。そして、客席の方々はうんうんと頷きました。
「確かに、貴女の予言なり予知のような言葉は凄い。でも、それで未来を変えることが出来たのでは?」
「は?」
「騎士団長が遠征に行く前に、伝えようとしましたか? ジーン様やカルロ様に体調管理について何か伝えようとしましたか?」
「何でそんなことしなきゃいけないのよ」
エリーザ嬢は訳が分からないといった雰囲気で、言葉を続けました。
「シナリオから外れたら意味がないじゃない」
この言葉が欲しかった。
この言葉は、彼女が平民の頃に良く言っていたらしいのですが、実際にこの場で発言してもらえて助かりました。
言質は、あるのとないのとでは大違いですから。
「ここに連れてこられたとき、色々と叫ばれていましたね」
あんたのせいで、予定が狂った!
ちょい役のくせに、なんでざまぁされてないのよ!
地下牢で死亡エンドのはずでしょ?
やっとハピエンルートになったと思ったのに!
これらの発言からも分かるのですが、彼女はきっとこの世界を物語のように見ているのだと思います。
もしかしたら、この世界が何処か別の世界では、物語だったのかもしれません。
ただし、それはそれ。
「未来を知っていて、不幸になる人がいると分かっている。それなのに、黙っていて、むしろそうなる方がいいと言う人を、誰が信用するのでしょう? 誰が、信頼するのでしょう?」
「――――っ」
ロラン様が息を呑んでこちらに視線を向けてきました。短絡的な方だとは思っていましたが、いまやっと気付かれたのでしょうか?
「未来を変えれば、何かしらの反動で不幸になる人が出るかもしれない」
「そう! それよ。それなのよ! あたしは、それを――――」
「であるならば、未来など語り、他人に聞かせる意味はないでしょう?」
「…………っ」
「目蓋を閉じ、耳を塞ぎ、口を噤んでいればよかった。でも、貴女はそうはしなかった。根底にあるのは、自己愛のみだから」
まるで、恋愛小説の流れをなぞり、ヒーローと恋に落ちたがっている読者。
キラキラとした宝石を見て、綺麗だから欲しいの! とワガママを言い続ける子ども。
「ふん。だから何なのよ! それの何が悪いわけ?」
「特に、何も悪いことはないですよ。私は貴女の考えが嫌いだ、と述べただけですので」
にっこりと笑ってそう言うと、エリーザ嬢の顔が怒りに染まっていきました。真っ赤でプルプルと震えて、感情のコントロールが大変そうです。
「問題なのは、その考え方と、起こした行動ですね」
「は?」
「モゼッティ男爵家に引き取られた形にはなったものの、そもそも戸籍も何も登録されていませんし、書面も交わされてはいないので、貴女はただのエリーザ。カルメン・バーニの娘、というだけなのですよ?」
「だから?」
――――あらまぁ。
まさかのまさか、そんなにも理解力が乏しくて、大丈夫なのでしょうか? 隣でぽかんとしているロラン様も含め。




