23:信じるか、信じないかは……ね。
「さてさて、ここまでこの劇を観覧されていた皆様は、ここにいらっしゃるエリーザ嬢が何者か、というのが気になられていると思います」
にっこりと深く笑って大広間を見渡せば、『気になる』といった視線や頷きを確認できましたので、次に進もうかと思います。
「俄には信じ難いということも、現実では起こり得るのだと思います」
有名なのは、幼子がお腹の中にいたときの記憶がある、などですね。
個人的には眉唾なのは、高次元の存在との交信や幽霊が見えるとか、『前世は〇〇だった』とかですが。信じていない訳ではなく、その中にいるかもしれないであろう本物が私には見分けがつかないので、眉唾扱いとしているのです。
なので、彼女もそういった類の方なのでしょう。
正直なところ、『本物』である可能性は限りなく高いと思っています。
「エリーザ嬢、貴女は前世の記憶があるのですね?」
そう言うと、会場からザワリとしたどよめきが起きました。気持ちは分かります。
エリーザ嬢は、だからなんなのよ、といった表情です。それもそうでしょう、平民の頃から周りにそう言い続けており『頭の可怪しな子』と思われていたのですから。
調査していく中で、彼女の言った『妄言』は、ごく一部の上流階級の情報でした。平民は知らないことばかりだったので、蔑まれていたのでしょう。男爵家に入ってからは、それを使い色んな人の下に向かわれたもよう。
本日は裏方で警護にあたられている、騎士団長様。
国一の資産があると噂の侯爵家の四男、ジーン様。
最近お家騒動で没落の危機に瀕している、伯爵様。
そして、辺境伯の嫡男、ロラン様。
全員がいわゆる『イケメン』という類とのことです。
そして、ロラン様以外は彼女を危険だとみなし、近寄らないようにしていたとのこと。
騎士団長様に限っては、素行調査も行っており監視対象にしていたそうです。
それもあり、諸々の情報が簡単に集まったのだとか。
「あたしね、未来がわかるのよ」
「ええ、そのようですね」
「…………なにその薄い反応」
八年ほど前に彼女が話していたという内容が『リオン様は、遠征で脚に大きな怪我を負うの。でもね、その時の功績が認められて騎士団長になるのよ! で、脚に少し障害が残るから、その手助けとかをしてる内に恋が芽生えるの! あー、早くあのジジイ男爵迎えに来ないかなぁ』というものでした。
彼女がまだ平民街にいたころ、近所の子どもたちが面白半分で聞き出していたそう。その内容があまりにも突飛すぎて、妄想癖の子どもで将来はきっと売れない小説家とかになるんだろう、なんて言われていたそうです。
ただ、場所が変われば話はまた別な方向に行くもので。
現騎士団長のリオン様は、左脚に障害があります。それは、五年ほど前に負った怪我のせいで。
エリーザ嬢が言った内容が現実とリンクしました。
それは、他の方でも。妄言と現実が合致していたのです。
侯爵家の四男であるジーン様は、三男のカルロ様と双子でした。ジーン様は身体が弱く、寝たきりの日々。カルロ様は風邪なんてひかない。なのに、ある年の冬にカルロ様は人生初の風邪を拗らせて儚くなられました。
それ以来、ジーン様の病弱だった身体は回復に向かって行くのだと。
「ねぇ、凄いと思わない? あたしね、予言者なの。聖女なの!」
エリーザ嬢が立ち上がりそう叫ぶと、ざわりとしていた会場が一気に無音になりました。
――――ドン引きされてるわね。




