22:本当の婚約破棄。
「そちらの問題は、後ほど」
騒がしくなってしまった客席に向け、唇の前でシーッと人差し指を立てると、横に座っていたノルベルト様から小声で「天然か……」というヤジが飛んできました。
ノルベルト様も煩いですよ。
「で、元婚約者様? 証拠もなく、現場を見てもいないのに、当時婚約者であった私を犯人と決めつけたことになりますが、お間違いはありませんか?」
「……」
「無言は肯定としますね」
にっこりと笑いかけると、苦虫を噛み潰したような表情で睨まれてしまいました。
「それから、婚約者がいたにもかかわらず、他の女性と身体を重ねたこと。裏切り行為かどうかは、私にはいまいち判断がつきませんが。一般的にはどうなのでしょうね?」
「っ……!?」
未婚の男性が発散する為の場所などもありますし、言及は致しませんが。印象は最悪でしょうね?
そして、未婚でありながら婚約者のいる異性と関係を持ったエリーザ嬢に関しては、石を投げつけられるレベルとのことです。まぁ、私は物理攻撃はしませんが。
「去勢なさい!」
「どうどうどう」
カッサンドラ様の怒りゲージがマックスです。意図的に煽った犯人としては、申し訳ない気持ちもありますが、事ある毎に立ち上がらないでほしいです。ちょっと落ち着いてほしいです。
まだ、今からですし。
「もうっ! 分かったわよ!」
プンプンとでも言いそうな雰囲気で着席してくださいました。
ノルベルト様は横で「馬……」とかボソリと呟かないでくださいっ。本当に、聞こえますからっ!
「ロラン様は口頭で仰いましたね、『婚約を破棄する』と。それに効力はございません」
「は? だから解消しないと?」
「…………馬鹿ですか?」
「ブフォッ! フグッ……」
あまりにもな発言につい本音が出てしまいました。
まさか、呼び出された内容を忘れているとか? いえ、まさかね?
隣でノルベルト様が笑い死にしそうな声を出していますが、顔は至って真面目というか無表情で取り繕われています。まぁ、放置でいいでしょう。
「効力がないので、こちらで用意いたしました。辺境伯は自領で監禁されておりましたし、すぐさま対応できる方が側にいましたので――――お父様が書類を作成し、国王陛下に承認のサインをしていただきました」
はいどうぞ、と目の前に書類を突き出します。
実はお父様たちが勝手に作っていたのですが、ここは利用させてもらいます。
「一方的な婚約破棄とは、こうするのですよ?」
こてんと首を傾げて、少し馬鹿にしたように話しかければ、ロラン様のプライドはズタボロ。これで多少の溜飲が下がったような気がします。
「さて、ここまでが私とロラン様の婚約破棄のお話です。ここからは、本気の断罪といきましょうかね?」
そう言うと、ロラン様が崩れ落ちるようにイスに座り込みました。そして、ボソボソと何かを呟いています。「聖女が」とか「予言が」とか、一部しか聞き取れませんが、精神を病んでいるような雰囲気です。
ロラン様って結構メンタル弱かったのですね、と追撃しましたら、ノルベルト様がまたもや隣で吹き出していました。
ノルベルト様、笑い上戸すぎませんかね?




