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2:事の起こり。




 ◆◆◆◆◆




 三ヵ月前。

 王族主催である新年を祝う夜会でのこと。


 この夜会に参加できるのは、簡単に言えば前年の活躍度。領地経営や開発、生産、はたまた国境線防衛や芸術など、様々な方向での国益への貢献度合いで決まります。

 国王のサインが入った招待状が届くのですが、そこには同伴者は一名のみと記載されています。そもそも、参加できるのはほんの一握りなので、同伴者になりたいと群がられることもままあるようです。


 我が家は伯爵家の中でも随分と下位なのですが、父というか両親の趣味に近い職業のおかげで、毎年必ず招待されています。私は将来のために、ということでいつも同伴させてもらっています。

 母は華やかな場所があまり好きではないので、いつも笑顔で送り出されます。

 

「いいなぁ、母さん。絶対に部屋で編む気だよ? 私も夜会よりレースを編みたいよ」

「お父様、それを会場で言わないでくださいよ?」

「分かってるよぉ」


 分かっているとは到底思えないような、子どものように口を尖らせた表情と声で返事されました。この人は本当に四十歳なのかしら? と思える程に子供っぽい父です。

 招待状が届いて喜ばない家は、我が家以外にはそうそういないでしょう。

 両親ともにレース編みや刺繍が大好きすぎて、社交が疎かになりがちなのですが、家での会話や生活を見ていると、貴族より職人の方が向いているのでは? と思うことがあります。


「それより! ロランくんに会うのは久しぶりなんだろう? 今年は辺境伯から連絡がなかったけど大丈夫かなぁ?」

「見事に話を逸らしましたね」

「そそそそんなことないよぉ」


 お父様が焦っているのを見てくすくすと笑いつつ、心の中は穏やかではありませんでした。

 なぜなら、新年の夜会の日は必ずロラン様とバイエ辺境伯閣下が我が家に来て下さっていたので。お父様は辺境が忙しいのだろうと気にも止めていませんでしたが、なんとなく嫌な予感がするのです。


「最近、辺境伯領は隣国との交渉が大変そうだからね」

「そうですね」


 今年は厳冬で食糧難になる国が多いらしく、比較的安定して食料生産が行えている当国に、難民が国境線を越えて入って来ているとのことでした。そして、辺境伯は隣国との話し合いや食料支援についての取りまとめなどに追われているようなのです。

 なぜそんなことを知っているのかというと、辺境伯からお父様へのお手紙と、国王陛下からのポロリで。

 この三人は幼い頃からの知り合いで、大人になった今でもしっかりと交流されています。


 私とロラン様が婚約しているのもそんな理由。

 我が家には騎士団に入っている兄がおり、唯一の武闘派です。勉学や経営の方もしっかりと出来るタイプなので、我が伯爵家の将来は安泰です。今代よりも栄えるだろうなんて言われています。お父様は流石にショックだったようですが、否定は出来ないよねと口を尖らせていました。

 そして、私は安心して愛しい人と結婚するといい、と言われていました。

 

 ロラン様とは、お父様たちのように幼い頃からの知り合いで、なんとなくこの人と結婚させられるんだろうなぁという空気ではありました。

 愛しいかと言われると、そうでもない、というのが本音なのですが。友人として好きではあります。それぞれの両親たちは私たちが相思相愛だと思っているようです。


 十六歳の誕生日にロラン様から「幼い頃からずっと好きだったんだ」とプロポーズされたこともあり、婚約を受け入れました。

 そして、二十歳になる今年の夏に結婚する予定なのですが、式の準備等が一切進んでいないのは少し気掛かりだなと思っていたところでした――――。




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