19:拝啓、元婚約者様。
(※悪役令嬢の名前を変えました。ロザンナ→エリーザ)
計画が決まると時が進むのは早いもので、一ヵ月、二ヵ月と経過してゆきました。
その間、ノルベルト様のお仕事を手伝ったり、辺境伯領で起きていた頭を抱えるような問題の調査を行っていました。
「まさか、辺境伯が監禁されていたとはな……」
「エリーザ嬢が陰で操っているにしても、意図が読み取れませんね」
「本人に聞くしかなかろうな」
諸々の情報は充分に集めました。
あとは、本人たちにしか分からないことを聞き出すだけです。
「さて、そろそろ反撃の狼煙をあげましょうかね」
「ふははっ。それを出すのか」
「あら、出さないと書いた意味がないでしょう?」
レターデスクで手紙を書いていましたら、後ろからノルベルト様が抱きしめて来られました。
そして、なぜか楽しそうにクスクスと笑われています。
あと、後頭部にキスしたり、髪の毛を指に巻き付けて遊ぶのを止めてほしいです。
「アレがどんな顔をするのか、見ものだな」
「まぁ、悪趣味ですね。覗くつもりですか?」
「馬鹿を言うな!」
ノルベルト様に座っていたイスごとグイッと回転させられました。この細腕のどこにそんな力があるのやら……。
金色の睫毛に縁取られた新緑の瞳を大きく見開いているので、機嫌を損ねたのかと思いましたが、違ったようです。
ノルベルト様はおどけたような表情で笑いだされました。
「こんなにも面白そうなものを、覗くものか! 最前列で見るに決まっているだろう?」
「…………悪趣味ですね」
「ふははは! 否定はせん!」
全く。なんでこんなことになったのかしら? あれもこれもそれも、元婚約者であるロラン様のせいね。
心の中で悪態をつきつつ机に向き直り、手紙を折りたたみました。
『拝啓、元婚約者様。
そろそろ断罪しますが、覚悟はよろしくて?
明日の正午、王城の大広間でお待ちしております。
来られない場合は、騎士団に強制連行していただきますので、悪しからずご了承くださいませ』
これを見たロラン様が顔面蒼白になることを祈って。
「エリーザも手紙で呼び出すのか?」
「どうせ、ロラン様についてくるでしょう?」
逃げようとしていたら捕縛するよう、見張りの影と迎えの騎士様たちに伝えておくだけで充分です。
ノルベルト様は、クツクツと楽しそうに笑っていました。何が面白いのかと聞くと、「自分が中心だと思っているヤツの心を折るのが上手い」とよく分からない褒め言葉を言われてしまいました。
それ、褒めてますかね?
「褒めてる、褒めてる」
「……以前、二回言うなとか怒ったのはどこのどなたでしたっけ?」
「んははははは!」
ノルベルト様がまたもや楽しそうに笑いだされました。そして、そこから繰り返されるバードキス。
「しつこいですよ?」
「ん。可愛い」
ノルベルト様の琴線がどこにあるのか謎です。
兎にも角にも、決戦は明日。
気を引き締めて行きましょう。




