18:デッドラインと今後の計画。
とりあえず、お互いに深呼吸しました。
文官様たちが戻って来るまで、あと三十分ほどあります。
この際ですから、表立って話せないことも確認しておきましょう。
「辺境伯領へも影の方々を送っているのですよね?」
「あぁ。そっちの調査は流石に時間が掛かるだろう。二ヵ月以内に完了すれば御の字といった感じだな」
「なるほど。では私はこのままこちらのお手伝いを?」
「まぁ…………してくれるなら嬉しいが。受注品等はどうする」
我が家が名を馳せている理由は、特殊な技法で編み出されているレース。そして、綿密な設計から作り上げられている刺繍。それらを両親と私だけで生産しています。それぞれに得意分野があり、私はタティングレースでの装飾品作りが得意です。
ご注文いただいた皆様には大変申し訳ないのですが、流石に監禁中に作業して納品してしまっては、陛下およびノルベルト様へ批判が集まってしまうでしょう。
「直近の納品は今のところ作り終えている分と、お母様が作れるものばかりなので、絶対に私が手掛けなければいけないのは三ヵ月ほど後の納品になります」
「ふむ。ではデッドラインはそこに設定するか」
「そうですね…………あ! とても最低な方法なのですが、ちょっとやってみたいことが……」
ノルベルト様が小首を傾げて、続きを促されました。
注文してくださった侯爵夫人であるカッサンドラ様には申し訳ないのですが、お断りの手紙を出そうかと思います。
今回の騒動と制作できない理由を書いて。
侯爵夫人は、タティングレースの装飾品に目がなく、今回も宝石並みのお値段での注文をしてくださいました。もちろん、それに見合うだけの作品を作る予定なのですが。
「……カッサンドラ夫人の注文を断るのか? 侯爵邸が半壊するぞ!?」
確かに、興奮されるとちょっと手に負えなさそうな雰囲気はありますが、赤髪同盟であるカッサンドラ様とは仲良くしていただいておりますし、とても優しい方なのですが。
「懐に入れた者にだけ、な」
「ええ。なので、たぶん大丈夫な気がします」
カッサンドラ様の怒りは、ロラン様とエリーザ嬢に向くはずです。そして、私がほとんどの夜会に参加しないことと、私がエリーザ嬢を虐めていたという申告の件を照らし合わせ、エリーザ様を敵認定してくださるはずです。
「恐ろしいことを計画するな……」
何故か引かれています。
味方は多いほうがいいじゃないですか? と言うと、王族を完全に味方につけているのに、更に増やそうとしていることに驚きを隠せないと言われていました。
「過剰防衛が過ぎるだろ」
「攻撃は最大の防御ですし」
「ふははは! 夫人を兵器扱いか!」
ただ、作為的にカッサンドラ様のご機嫌を損ねてしまうのは申し訳なさ過ぎるので、納品はしっかりと行いたいと思っています。
「ん。では、製作時間も捻出しつつ、仕事を手伝え」
「はいはい」
「返事を二回するな!」
「どこのお母さんですか」
良く分からないところに怒るノルベルト様は放置して、今後の予定を頭の中で組み立てるため、机に戻りました。
もう少しイチャイチャしたいとかの、ノルベルト様のお声は聞こえなかったこととしました。
もう十数分ほどで、文官様たちが戻ってきてしまいますし?




