14:柔らかな空気に包まれて。
◇◇◇◇◇
食堂に向かうと、国王陛下が何かの書類を片手にティーカップを傾けられていました。入ってきた私たちに気付くと、書類を置きにこやかに笑いながら手招きされました。
カーテシーをしつつ朝の挨拶をしていると、「堅苦しいのはいいよ」と微笑まれます。
ノルベルト様もですが、陛下もいつも挨拶を省いていいと仰るのですが、何故なのでしょうか。
「んー? 君は家族みたいなものだからね」
「っ、陛下」
「んー?」
何故かノルベルト様が焦ったような反応をしました。陛下はというと、壮年男性特有の含みのある笑顔で首を傾げられています。
「ほらほら、早く席に着きなさい。お腹が鳴っちゃうよ」
「申し訳ございません」
慌てて案内された席に着きました。
テーブルは六人掛け程度のこぢんまりとしたもので、陛下の向かい側にノルベルト様、その隣に私が座っているのですが、いつ見ても違和感しかありません。
下位貴族でも、十数人掛けのテーブルを使っているところもありますし、豪華絢爛な装飾品で溢れていたりもします。ですが、ここは本当に質素と言っていいほどに何の装飾品もないのです。
陛下いわく、王城は部屋数もあるし、ここは奥だからそうそう他人は入らない。それなら食事時くらいは素の自分たちで居られる場所がいい、とのことでした。
「こうして一緒に食事するのはいつぶりだろうねぇ」
ノルベルト様が幼い頃、授業を一緒に受けていましたので、その日は昼食も一緒に取るのが当たり前でした。
「あの頃は王妃もいてとても賑やかだったねぇ」
王妃陛下は私たちが十五歳の頃、風邪をこじらせ儚くなられました。国王陛下は後妻を勧められていたようですが、結局は娶らないことに決めたようでした。
そこら辺は大人たちの事情や陛下の想いもありますので、深くは聞いていませんし、聞かないようにしていました。
「淋しいのなら、後妻を娶ればいいでしょう」
ノルベルト様がまさかのズバッと発言です。
いえ、こういった会話は昔からなのですが、にこにことノルベルト様をイジる陛下と、真顔で辛辣な発言を投げつけるノルベルト様の構図は二十歳になっても相変わらずなのですね。
「ほんと、男児は可愛くないねぇ」
「男児いうな」
「ふふふふっ。ノルベルトはまだまだ子供だよ」
陛下がとても楽しそうに笑いながら、ベーコンをひと切れぱくり。美味しいねぇ、なんて言いながらゆったりと食べる朝食は、幼い頃に戻ったような感覚でした。まるで、昨日の騒動なんてなかったかのよう。
陛下が纏う柔らかな空気のおかげで、ホッと一息つけました。
ノルベルト様もそれが分かっているようで、言葉はいつも通り棘々しいのですが、お顔は緩やかにほぐれていました。




