1:婚約破棄されたので。
新規連載です。ちょっち短め。
三ヵ月前のとある日、私の人生は劇的な転換期へと入りました。
『アマンダ……いや、赤い悪魔! お前との婚約を破棄する!』
夜会の会場でそうほざいて私に赤ワインを浴びせた元婚約者――バイエ伯爵家の嫡男であるロラン様によって。
「さて、そろそろ反撃の狼煙をあげましょうかね」
「ふははっ。それを出すのか」
「あら、出さないと書いた意味がないでしょう?」
レターデスクで手紙を書いていましたら、後ろから王太子殿下――ノルベルト様が抱きしめて来られました。
そして、なぜか楽しそうにクスクスと笑われています。
あと、後頭部にキスしたり、髪の毛を指に巻き付けて遊ぶのを止めてほしいです。
「アレがどんな顔をするのか、見ものだな」
「まぁ、悪趣味ですね。覗くつもりですか?」
「馬鹿を言うな!」
ノルベルト様に座っていたイスごとグイッと回転させられました。この細腕のどこにそんな力があるのやら……。
金色の睫毛に縁取られた新緑の瞳を大きく見開いているので、機嫌を損ねたのかと思いましたが、違ったようです。
ノルベルト様はおどけたような表情で笑いだされました。
「こんなにも面白そうなものを、覗くものか! 最前列で見るに決まっているだろう?」
「…………悪趣味ですね」
「ふははは! 否定はせん!」
全く。なんでこんなことになったのかしら? あれもこれもそれも、元婚約者であるロラン様のせいね。
心の中で悪態をつきつつ机に向き直り、手紙を折りたたみました。
『拝啓、元婚約者様。
そろそろ断罪しますが、覚悟はよろしくて?
明日の正午、王城の大広間でお待ちしております。
来られない場合は、騎士団に強制連行していただきますので、悪しからずご了承くださいませ』
これを見たロラン様が顔面蒼白になることを祈って―――――。
次話はお昼頃に。