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シノとゲーム

 レールを選び始めてから二日が経った。


 俺はいつものように柳の木へ足を運んだ。


 そこにはいつものように一人の女の子が待っていた。


 まだ出会ってたったの五日のなのになんだか幼馴染のような感じがする。


「来たぞ」

「いらっしゃい。……何その荷物?」

「ああ、今日はシノにやってほしいものがあるんだ」

「やってほしいもの?」

「そう、これ」


 ガサゴソと取り出したのは携帯ゲーム機。

 何をするかわからないシノは困惑した顔をしている。


「ソフトはすでに入れているからすぐに始められるぞ」

「なんのゲームをするの?」

「まあ、始めればわかる」


 そういうと俺はそのゲーム機をシノに渡した。


 ゲームを始めて触るのではないかとも思ったが、意外と慣れた手つきでゲームの電源を入れている。

 そうして電源を入れたゲームは画面に今からやるソフトを映し出す。


「……なんか全体的に暗い画面だね」

「そりゃそうだ」


「注意書きにホラー表現がありますって書いてあるんだけど、見間違い?」

「見間違いじゃない、正しい」


「……私なんで今からホラーゲームをしなきゃならないの?」

「いや、相談だけなんて悪いから何か遊べるものをって思って。俺ゲームたくさんしてきたけど一番好きなのがホラーゲームなんだ」


 まあ、ここに一人だけでもゲームがあれば楽しめるかなとも思ったんだけど。


「怖いものとかホラーが好きなの?」

「別にそういうわけじゃない。普通にお化け屋敷とか怖いし、肝試しだって好きじゃない」

「それなのにホラーゲームが好きなの?」


「ホラーゲームのシナリオが好きなんだよ。ホラーっていうとなんか幽霊だったり化け物だったりを想像すると思うんだ。だけどホラーで一番見どころがあるのって登場人物の感情だったり、シナリオの盛り上がりだと思うんだ」

「このゲームもそうなの?」

「そう! そのゲームは俺がプレイしてきた中でも五本の指に入るほど面白い。キャラ一人一人が魅力的で、友情、恋愛、仲間、そのどれもが熱く綺麗な文章なんだ」

「そうなんだ」


 ……まずい。


 幽霊だからホラー大丈夫だろとか思ってたけど、シノがホラー大丈夫だなんて保証ないじゃないか。


 さらにゲームのことについて好き放題しゃべって。


 典型的なゲームオタクみたいになってしまったことに今更ながらに気が付いた。


「ご、ごめん。ホラー苦手なら別に無理しなくて大丈夫だから」

「ホラーは少し苦手だけど、今は慎吾くんがいるから大丈夫かな」


「まあ、困ったときはアドバイスするし、どうしても怖くなったら変わるから」

「了解」


「……本当にホラーゲームするの?」

「だってプレイしてほしくてこのゲーム持ってきたんでしょ?」

「いや基本的にホラーゲームってプレイする人少ないから、ホラー苦手って言ってたし」

「慎吾くんが怖がらせようとしてこれを持ってきたんなら少し考えたけど、別にそういうわけでもなさそうだし。それに君がそこまで熱く語るゲームなんだから、私だってやってみたいよ」

「……そっか」


 そんな反応されるとは思っていなかった。


 なんだかすごくむずかゆい気持ちになる。


 隣に座ってゲーム画面をのぞいてみる。

苦手という割にシノのプレイはとても快調のように見えた。





……どのくらいの時間が経っただろう。


昼間青空のてっぺんにあったお日様は、今は俺達と同じ目線で真っ赤な光を浴びせてきている。

シノは時間も忘れて真剣にホラーゲームをプレイしていて、俺もその真剣さにつられてずっと集中してその画面を見ていた。


ゲームはそろそろ終盤に差し掛かっていて、一番のクライマックスシーンへと突入していた。


 一番盛り上がる場面。

主人公が大好きなヒロインを助けるために強大な敵に立ち向かうシーン。


「これさえ乗り切れば後はゲームクリアだよ」

「…………」


 どうやら集中しすぎて俺の声すら聞こえないらしい。


 はじめは不安だったけど、喜んでもらえてよかった。


 それから俺はまたゲーム画面を見ようとした。

 けれど、俺の目にはシノの真剣な姿しか映っていなかった。


 よくよく見ると、かなり目鼻立ちは整っている。

 それに加えて、日本人らしからぬ白い髪の毛が彼女の魅力を引き立たせている。


 出会ったときは幽霊の女の子ってしか頭になかったけど、普通の女の子として見るならかなり美少女の部類に入るのではないか。


 むしろモデルとかアイドルとかで日本中にファンができるのではないかとすら思う。


 やばい。


 全然気にしてなかったのに、今になってドキドキしてきた。


 落ち着け。落ち着け。


 どれだけ可愛くても彼女は幽霊だ。

 きっと俺では考えられないような辛い経験をたくさんしてきたはずだ。


 だから、俺とシノが一緒にいる時はせめて彼女が寂しくしないようにしないといけない。


 変なことを考えていたらシノはきっと困るから。


 だから変なことは考えない。

 変なことは考えない‼


「ねえねえ」

「へ?」


 気が付けばシノはこっちを困った顔で見つめている。


 やばい、困らせないって決めたばっかりなのに早速困らせてしまった。


 何とかして誤解を解かないと。


「べ、別に何とも思ってないから!」

「ん?」

「ちょっとだけ考えたかもだけど、別に本当にそうなったらとか、本気で思ってないから」


「さっきから何言ってるの?」

「え?」


「ゲーム終わったよ」

「そ、そっか。お疲れ様」


 シノの持っているゲーム機の画面には、プレイしていたホラーゲームのタイトル画面が映っていた。


 どうやら誤解していたのは俺の方らしい。


「それで、さっきなんて言おうとしてたの?」

「何でもないよ。俺の勘違いだった」

「そっか」


「それより、どうだった」

「ゲーム?」

「そうゲーム。面白かったでしょ」

「うん。最初にホラーゲームを持ってきたって聞いた時は正気じゃないって思ってたけど、今ならこのゲームをプレイしてよかったって心から思えるよ」

「そっかそっか。それならよかった」


「ねえ、一つだけ質問してもいい?」


 さっきまで笑顔だったのが一変して、不安そうな顔をしながら聞いてきた。


「質問って?」


「君は大事な人が大変な目にあっていたら、このゲームの主人公みたいに助けてくれる?」


 ずいぶん現実味の無い質問をしてきた。


 でも、俺が初めてプレイしたときはこの主人公のこと勇気あるなって思ってたからな。


「実際にその場面にならないとわからないけど、たぶん逃げるんじゃないかな」


「私もそう。実際に目の前で大事な人がつらい目に合っていても、私は逃げちゃう」


 そう彼女は言った。


 その表情はひどく悲しげで、今にも崩れてしまいそうな雰囲気をしている。


 でも、俺の言葉はそれだけで終わりじゃない。

 まだ続きがある。


「でも今は、今だけは違う」


 シノに宣言するように、力強く、はっきりとそう言った。


「今の俺なら助けると思うよ。そのゲームの主人公が歩んできた道は、レールは、俺は綺麗だってわかるから。だから今の俺は多分そのレールを選ぶと思う」


「慎吾くんは強いね」


「それを俺は君に教えてもらったんだ」


「え?」


「なんで分かりませんって顔してんだよ。きみがレールの上を歩くことは間違いじゃないって、正しいレールを選べって教えてくれたんだ」


「…………」


「だから多分、シノにもできるよ。きみも今の俺と同じようにそのレールを選ぶことが出来るよ」


「おかしいな。きみに相談されたのはついこの前だったのに、もうできるようになってるなんて」


 彼女は少しおびえながら、それでも必死に笑顔を作ってそう言った。

 だから俺は精一杯のキメ顔でこの言葉に返すことにした。


「すごいだろ」

「うんすごい。でもそのドヤ顔はウザい」

「ずいぶん辛辣な言葉を浴びせてくるんだな」

「そういわれても仕方がない顔をしてたんだよ」


 そんなことを言い合っているとシノはいつものような雰囲気に戻っていた。


 それを確認した俺は持ってきたものを片付け、変える準備をした。


「またっ」

「ん?」


「また面白いゲーム持ってきてよ。他のもあるんでしょ?」

「もちろん! きっと気に入ると思うよ」

「じゃあ明日。楽しみに待ってるから」

「了解。じゃあまた明日なー」

「うんまた明日―」


 そういって今日は別れた。


 いつもよりシノに近づけた気がして。


 それがなんか嬉しくて。


 いつもよりワクワクしながら帰宅した。


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