射撃訓練ふたたび!
射撃場。
俺は耳当てとアイウェアを身につけ、トウコたちの射撃練習を見守っている。
スナバさんの指示でトウコとエドガワ君が銃を撃つ。
トウコは早撃ちガンマンのように抜き撃ち。
たたたたたん、と六連発。
エドガワ君はカーシステムの構え。
顔の前で狙いをつけ、エクステンデットポジションで撃っていく。
「撃ち方やめ」
スナバさんの操作で的が近づいてくる。
うぃーん。
結果は――
「やりいっ! 全弾命中っス!」
「ボクは少し外してますね……」
トウコは喜び、エドガワ君は肩を落とす。
「どちらも問題ない。敵は倒れる。エドガワはもう少し速く撃て」
トウコは狙っていないようで、ちゃんと当てている。
全弾が中心とはいかないが、当たればいいのだ。
エドガワ君は狙いすぎている。
的撃ちならいいが、実戦では間に合わないかもしれない。
スナバさんがボタンを操作する。
覆面姿の悪人と、被害者っぽい人の柄が書かれた的が出てきた。
「次はこの的を使う。覆面をしている者が敵。それ以外は撃つな」
「リョーカイっス!」
「はい……!」
トウコが銃をホルスターに戻す。
エドガワ君は銃を台に置く。
「よし、始めろ!」
スナバさんの号令で、的が動く。
見えないように倒れていた的が起き上がる。
トウコは迷わずに。
エドガワ君は慎重に。
それぞれ的を狙って撃っていく。
「やめ」
的を確認。
トウコはすべての悪党を撃ち抜いている。
しかしトウコは悔しそうな声を上げる。
「あー! 一発しくったっス!」
俺は的をよく見てみる。
悪党と人質がペアになった的がほとんど。
だが、二枚とも人質のパターンが紛れていた。
これに対してトウコは射撃。
二人の人質の中間を射抜いている。
俺は言う。
「ふむ。ギリギリ人質には当たっていないな」
スナバさんが厳しい声で言う。
「当てなければいい、というものではない。気をつけろ、アソ」
「リョーカイっス!」
トウコがコミカルに敬礼した。
スナバさんはそれをちらりと見たが、なにも言わない。
別にバカにしてるわけじゃないんですよ!
いつもこうなんですよ!
続いてエドガワ君の結果。
こちらは人質への誤射はない。
だが悪党を撃ち損じている。
見逃して撃っていない的があるのだ。
「ためらうな、エドガワ。とっさの判断だ」
「はい……」
エドガワ君は難しい顔でうなずいている。
誤射するくらいなら撃たない、という姿勢だ。
これがもし本番で、相手が銃を持っていたらエドガワ君が撃たれてしまう。
しかしエドガワ君の異能なら、撃たれても当たらない。
なら、じっくり狙っていてもいいか。
人質に当ててしまったら、どうにもならない。
「あたしはとっさにハズしたっス!」
「次は撃たないようにしろよな、トウコ」
とりあえず撃つのはやめなさい。
まあ、間違えて人質の絵を撃たなかっただけマシだ。
ダンジョンで乱戦になっても、トウコに誤射されたことはない。
危なっかしいが、危なくはないのだ。
スナバさんが言う。
「銃を向ければ人は怖がる。一般人ならなおさらだ。そこが悪性ダンジョンであってもな」
「記憶が消えちゃうなら、よくないっスか?」
トウコは認識阻害のことを言っている。
でも、よくはないだろ。
注意しようと思ったが、スナバさんが口を開いたので黙っておく。
スナバさんが淡々と言う。
「ダンジョンとそれに関連する記憶は消える。俺たちや銃のことも忘れるだろう。だが恐怖は心に残る。それを考慮しろ」
「あー、そうなんスね! じゃあ気をつけるっス!」
トウコはなるほどーっという顔で聞いている。
基本的には素直である。
スナバさんも怒ったりしない。
「クロウさんもやってみるか?」
「せっかくだし、やらせてもらおうかな」
俺は投げナイフで挑戦する。
机にナイフを並べてスタート。
ぱたぱたと起き上がる悪党と人質の絵。
俺は次々とナイフを放つ。
【投擲】の効果は弱まっているが、手に染みついた技術は残る。
狙った通りにナイフが飛ぶ。
一番遠い的だと、狙いはシビアになる。それでも命中。
結果――
エドガワ君が驚嘆の声を上げる。
「すごい。ナイフで全部当てるなんて……」
トウコが親指を立てる。
「おおーっ! さすが店長っ! しびれるっス!」
スナバさんが的を見て言う。
俺のナイフの狙いは少しずれている。
「これはわざとやったのか? どれも急所を外しているな」
「まあ、殺さなくてもいいと思って」
それを聞いてスナバさんがうなずく。
「甘いと思うが、無力化できているのだからいいだろう。それに、この的ではしっかり胸に当てている。正しい判断だ」
「少し遠くて、肩や腕を狙う余裕がなかったんですよ」
急所を外そうとして、狙いを外しては元も子もない。
人質に当てたら、目も当てられない。
だから確実な胴体を狙った。
悪党は死に、人質は助かる。判断は正しい。
だけどこれは絵だ。
実際の悪党――人間とは違う。
人間相手に致命的なナイフを放てるだろうか。
モンスターが相手ならできる。
だけど相手が人間だったら……。
そんなことを考えても仕方ないが、公儀隠密の仕事ではありえることだ。
一応、覚悟はしておかなきゃな。
もっとも、ダンジョンならそんな心配はないんだけどね!
誤字報告たすかります!




