炎分身の術!? 【スキル検証】【嫉妬】
リンが炎分身へ手を伸ばす。
そして残念そうな顔で言う。
「この分身さん、触れませんねー。それに動かせません!」
続いてトウコも炎分身に手を伸ばし、さっと手を引っ込める。
「あつっ! これ、燃えてるっスよ!?」
「そりゃそうだろ! どう見ても燃えてるわ!」
炎分身の体はめらめらと燃える炎でできている。
触れば熱いに決まっている。
離れていても、放射された熱で顔が熱くなるくらいだ。
リンは【火耐性】と【防火】があるから大丈夫なのだろう。
トウコにも火鳥を【捕食】して得た【火耐性】がある。
しかしこれはスキルレベルが低い。
炎のダメージを減じてくれるが、無敵になるわけではない。
リンが申し訳なさそうに炎分身を消す。
「あっ。トウコちゃん、ごめんね!」
「へーきっス! ほらほら!」
トウコが手をみせてくる。
火傷はしていない。問題ないね。
「リン。今度は熱くならないように炎分身を出してみてくれ」
リンは【火魔法】の温度調節ができる。
普段から風呂上りに髪や体を乾かすときに使っている。
便利だよな。
日常生活に自然と魔法を落とし込んでいる。
俺は【水噴射】の水量を調節できない。
こういう操作の感覚には個人差があるのかもしれない。
今度リンにいろいろ教わってみようかな。
うん。そうしよう。
手取り足取り教えてもらうとしよう!
おっと。それは帰ってからだ。
リンが俺の言葉にうなずく。
「そうですね。やってみまーす! 弱火で……炎分身の術ー!」
リンが両手を突き出して魔法を放つ。
すぐに炎の分身が現れた。
先ほどよりちらつきが少なく、より人型に近い。
炎の色は暗くなり、前ほどまぶしさはない。
そのおかげで輪郭がはっきりして、顔だちがわかるようになった。
「おおーっ! かなり店長っぽくなったっス!」
「ゼンジさん、どうでしょうか?」
リンが俺をじっと見る。
どうって言われても……。
うっすら光り輝く俺の姿……。
きりっとした表情をしている。
見れば見るほど恥ずかしいわ!
「かなり似ているんじゃないか? うん。よくできてる」
でも褒めておこう。
リンは顔をほころばせる。
「えへへ。よかったです! 温度調整もうまくいったので、触っても火傷しないと思います!」
さっそくトウコが手を伸ばす。
分身に触れようとしたトウコの手は炎分身をつきぬける。
「今度はアツくないっ! でもつきぬけちゃうっス!」
「炎だからですねー。触れるようにはできないみたいです」
「ベースが炎だからな。俺の分身も最初は幻影が出るだけだったし、これで充分じゃないか?」
「でも、いつもの分身さんとは違いますねー」
「ああ。武器を持てないし、物が拾えないな」
それに見た目が派手だから、デコイにもならない。
偽物だとすぐバレる。
トウコが言う。
「アツアツ突撃させればいいっス!」
「炎の体で敵を焼くことはできそうだな」
それは俺の分身にはできないことだ。
「うーん。でも、普通にファイアボールでいいんじゃないかなー」
「そりゃそうか」
トウコが思いついたように言う。
「でもでもっ! 炎だから無敵かもっス!」
「ふむ。炎だから破壊されないわけだな」
攻撃を引き受けるにはちょうどいいかもしれん。
リンが小首をかしげながら言う。
「モンスターさん、近づいてくれるかなー?」
「ふむ。敵が攻撃してくれるとは限らないか。じゃ、次にモンスターが出たら試そう!」
「はーい!」
少し進むとコウモリが現れた。
「よしリン! さっそく試してくれ!」
「はい!」
炎の分身を出して様子を見る。
しかしコウモリたちは無反応。
「あー。ダメそうっスね!」
ぜんぜん攻撃してこない。
むしろ避けて飛んでいく。
まあ、自ら炎に突っ込んでくるわけないか。
続いてゴブリン。
炎分身を見つけて、警戒するような声を上げる。
「アギッ!?」
「フゴッ!」
戦士ゴブリンが盾を構える。
その後ろから斥候がナイフを投げる。
狙いはまあまあ。
ちゃんと炎分身に命中――いや、すり抜けた。
俺の分身ならダメージを受けて消えるところだ。
炎だから無敵なのだ。
「お、ゴブリンは釣れるな!」
「やったー! ちゃんと役に立ちましたっ!」
剣士ゴブリンが炎分身に斬りかかる。
しかし剣はその体をすり抜ける。
驚いたゴブリンが飛び退く。
「リン姉っ! ここでアツアツ突撃っス!」
「えいっ! うーん。だめー。やっぱり動かせないなぁー」
「あ、動かせないんだったな」
リンは分身を自在に移動させられない。
俺の分身も初期は動かせなかった。
【嫉妬】はすべてを真似れるわけではない。
トウコが剣士に銃を向ける。
「んじゃあたしがやっちゃうっス! ピアスショットー!」
残るゴブリンを片付けて、先へ進む。
リンは少し汗ばんでいる。
息も上がっていて、その姿は少しなまめかしい。
「ふう……」
「もしかして、疲れたのか?」
「はい。なんだか、いつもより魔力の消費が大きいみたいなんですー」
【嫉妬】で模倣したスキルはコストパフォーマンスが悪いようだ。
リンに丸薬を差し出す。
「じゃ、魔力回復丸を食べて休憩してくれ」
「ありがとうございまーす」
こうして俺たちは新階層を後にした。




