帰路はマップの穴埋めで!
十八階層から引き返し、十七階層へ戻ってきた。
帰路、未踏破部分のマップを埋めていく。
曲がり角では、これまで以上に注意して索敵を行う。
【サポートシステム】と【魔力知覚】だけに頼ってはいけない。
先に分身を動かして角を曲がらせる。
そうして【隠密】しているカマキリをあぶり出す。
角を曲がる度にカマキリ探しと罠探しをさせれば、その通路は安全だ。
一工程増えたが、結局のところ分身を使えばほとんどの危険は回避できる。
最近は【水忍法】に浮気しているが、もともと俺は分身系忍者だ。
便利さ特化。
なんでもできる。
トウコがあきれ顔で言う。
「分身てチートっスよね!」
「うらやましいですねー。私も分身さん、欲しいです!」
リンはチートという言葉を「羨ましいもの」と認識している。
「そういえば【嫉妬】は欲しいスキルをマネできるんだよな?」
「はい。そうですね」
「じゃあじゃあ! 店長の分身をコピれるかもしれないっス!」
「そうそう。リン。ちょっと試してみたらどうだ?」
リンは少し考えると、勢いよくうなずく。
「うーん。どうやればいいのかな? でも、やってみますね!」
リンはうんうん唸りながら、いろいろと試している。
うまくいかないようだな。
忍術の使い方なんて、そうそうわかるものじゃない。
俺だってスキルがあるから使えているだけで、原理などわからない。
少しでもヒントになればと、【分身の術】を説明してみる。
「分身は空中や水中には出せない。だから床の上に立っている姿をイメージするんだ。姿は多少変えられるけど、服装くらいがせいぜいだ――」
スキルレベル一だと見た目だけで触れない幻影である。
スキルレベル二からは実体のある分身が出せる。
リンはギュッと目を閉じて、イメージを膨らませているようだ。
「床の上に……ゼンジさんの姿で……えいっ!」
「ん……?」
いや、自分の姿をイメージしなきゃダメだろ?
俺の姿をイメージしてどうする。
もしできたなら、それは他者分身とでも言うべき別ものだぞ!?
リンのすぐそばの空間が揺らめく。
なにかが現れようとしている……?
え? できちゃうの?
俺にもできないのに?
俺は自分の分身しか出せない。
リンやトウコの姿を試したことはある。
でもできなかった。
想像力をかきたててもムリなものはムリなのだ。
「できましたーっ!」
「って、できちゃうのかよっ!?」
分身が現れた。
といっても俺の分身とはぜんぜん違う。
なんたって、めらめらと燃えている。
人型の炎である!
トウコが両手を握って興奮したように言う。
「すげーっ! 燃えてるっス!」
「おお……!? 炎分身とでも言うか……」
でもこの姿は……。
体のラインがリンのものとは違う。
豊かな起伏や細いくびれがなく、もっと大柄。
男性の体形だ。
背格好は俺とほぼ同じ。
顔は炎がちらちらと動くので見分けにくい。
「やったーっ! ちゃんとゼンジさんの姿になってます!」
ちょっと、本家を越えないでくれる!?
俺は少し釈然としない気持ちで言う。
「なんで俺の姿で出せるんだ? 難しくないか?」
リンが頬を赤く染め、恥じらうようにうつむく。
「その……私が欲しい分身さんは、ゼンジさんの分身さんなんです。自分の姿よりイメージしやすいですし……」
「なるっ! 【嫉妬】はホントに欲しいものしか作れないからっスね!」
【嫉妬】の発動には条件がある。
――心から渇望する能力を一時的に使用できる。
本当に欲しいと思うものしかマネできない。
リンは前にも分身が一人欲しい、とか言ってたっけ。
うーむ。
本気だったのか、あれ。
俺のこと好きすぎるんじゃないの?
いやうん。そうだとは思ってたけど!
でも、改めて言われるとすごい恥ずかしいぞ!




