対象は? 一部か全部か? 条件は? 【スキル検証】【透過】
ゴブリンを蹴散らし、迷宮を進む。
発見した罠はマーキング。
うむ。順調だ。
【透過】の検証を続けていこう。
危うさはあるが、面白いスキルだと思う。
「さて、続きだ。さっき、クナイで壁を透過したとき、体のほうはどうなってたんだ?」
「そりゃ、体も透過してるっス! 全身スケスケ状態っス!」
【透過】を発動させても見た目に変化はない。
トウコが透明に見えたりはしない。
リンが言う。
「トウコちゃん。持っている物だけを透過状態にはできないのー?」
「んー! 服だけ透過っ! ……ムリっスね!」
「ヘンな練習するんじゃない! うっかり発動したら困るだろ!」
「えっと……服だけ透過したら、体をすり抜けて脱げちゃうのかな?」
「透過能力にはよくあることっス!」
わかったうえで狙うんじゃない!
「服が床に落ちて回収不能になるぞ!」
「帰るまで全裸縛りプレイっスね! ラッキーっスね、店長!」
「そんなのはラッキースケベじゃなくて露出狂だけどな!」
トウコがニヤニヤしながらリンに触れる。
「リン姉の服を透過!」
「きゃっ!」
「――できないっスね! 残念っ!」
残念!
トウコの頭が残念だよ!
「相手の武器や防具を透過させるのは無理か。やはり、対象はトウコ本人だけだな。他人は対象外だ」
「そうみたいっス! じゃあ、自分の体だけ透過っ! 服をすり抜けるっス!」
「またそんな……おっ!?」
トウコの服がひらひらと床に落ちる。
ホルスターや銃も一緒だ。
むむっ!?
つまりトウコは全裸――!?
リンが両手を広げて俺とトウコの間に割り込んだ。
「ちょっとトウコちゃん!?」
「お風呂に入るとき便利っス! でも靴だけ残ったっス!」
なにそれ気になる!
瞬間脱衣の術かよ!?
「靴だけ? 靴下もか?」
「ぜ、ゼンジさん! ダメですよっ!」
リンが必死にガードする。
盾役らしい見事なカバー力! 見えないぞ!
「疑問が一つ解けた。やはり足は透過しないんだ!」
「さすが店長! 靴下だけは脱がさない派っスね!」
「ちげーわ! そんな高度な趣味はない! 透過は接地している状態でしかできないんだよ!」
リンが首をかしげる。
ガードが緩んだぞ! じゃない!
「せっち? ええと、地面に足がついていないとダメってことですか?」
「たぶんな。これも安全装置みたいなものだろ」
「でもジャンプしながら透過できるっスよ?」
「おいおい。もう試したのか……。着地できずに落下しなくてよかったな」
「うえぇ?」
靴下、靴、床。
これを透過すると床を突き抜けて落下してしまう。
「つまり、地面に接して体重を支える足は透過できちゃいけないんだ。自動的に透過しないよう安全装置が働くんじゃないか?」
「そんなもんスかね?」
「おそらく逆立ちして【透過】を発動すれば、手が透過対象外になるだろうな」
「そうじゃないと、危ないですよねー!」
トウコがうなずく。
「床をつきぬける、つまり! ゆかのなかにいる、っスね!」
「わかったなら気をつけろ! マジでそんな死に方はやめてくれ。いくらゾンビの【復活】でも埋まったら戻れないだろ!」
トウコの【復活】にはある種の安心感がある。
だけど、それ以上に危険なスキルが増えている気がする!
リンがトウコの肩を掴んでゆさぶる。
「ジャンプしたらダメだからね、トウコちゃん! あーっ! あとお洋服も早く着てー!」
「あっ。忘れてたっス!」
忘れんな!
リンに隠れて見えないが、トウコはごそごそと服を着ているようだ。
「トウコ。あたりまえだが、ジャンプ中に透過したらダメって話だぞ。着地までに効果が切れるならいいが……事故が怖い」
「わかってるっス! はい。服も着たっスよ!」
トウコの手の中に新たな銃が現れる。
体から離して消えてしまった銃のかわりである。
リンが言う。
「あ、コウモリさんが来まーす!」
「んじゃ俺がやる! 水噴射!」
コウモリが水流にのまれる。
トドメを刺して戦闘終了!
「さすが店長! 流れるようなコウモリ処理! 水忍法だけにっ!」
「微妙なお世辞をどうも」
転がった魔石を拾う。
リンが魔石を数えながら言う。
「あれー? コウモリさん、いつもより少なかったみたいですねー?」
「ん? たしかにな。いつもなら十匹くらいはいるんだけど」
拾い集めた魔石の数が少ない。
「まー、他のモンスターに食われたんじゃないっスか?」
「そうだな。クモかカマキリだろう」
話しながらも着実に攻略は進んでいく。
偵察だけのつもりだったけど、検証しながら結構進んできたな!
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