カドマチ・イモカマキリ!?
【意識共有】の新段階はなかなかいい感じだった。
このスキルは【上級忍術】なので、次である三段階に上げるのは少し先になる。
なにしろ、十六ポイントも必要だ。高い!
スキルポイントはいつでも不足しているから、しばらくは熟練度を貯めていこう。
十七階層の探索を続ける。
自律分身が調べた通り、前の階層とそう変わらない。
リンが曲がり角を指差す。
通路は直角に折れ曲がっていて、先は見えない。
「この先に敵がいますっ! ぼんやりしているのでカマキリさんですー」
リンは最後尾だが【サポートシステム】を先行させている。
視線が通らなくても敵を見つけてくれる。
トウコが語気荒く言い捨てる。
「また待ち伏せっスか! 角待ちイモ野郎めっ!」
シューティングゲームでは、曲がり角で待ち伏せするのは有効な戦法だ。
そして、嫌われがちなプレイスタイルである。
忍者の俺としては非難できない。
隠れたり不意打ちしてもいいじゃんね?
「じゃあ、焼いちゃいますねー」
リンが魔法の準備に入る。
俺はそれを手で制す。
「リンはちょっと休憩してくれ。魔力を温存しよう」
「はーい。お気遣いありがとうございまーす」
カマキリが潜んでいることが多いせいで、リンの負担が高くなっている。
休ませてあげないと、息切れしてしまう。
「カマキリはどのあたりにいる?」
「角を曲がってすぐのところ、壁にくっついていると思います」
あのあたりですー、という感じでリンが壁を指差す。
確認したのはカマキリの位置。主に高さが知りたかった。
いるのは下のほう。
床の上か、壁の低い位置だろう。
俺は壁に手を添えながら言う。
「俺が上から注意を引く。トウコ、攻撃役を任せる」
「いいっスね! 角イモカマキリをやってやるっス!」
「んじゃ突っ込むぞ!」
「りょっ!」
俺は壁を走って駆け上がる。
壁から天井へ。上下の逆転した状態で角を曲がる。
いた!
カマキリが俺を見上げている。
大きな複眼の奥――黒い瞳と目が合うような感覚。
カマキリが前脚をかかげて、威嚇のポーズをとる。
鋭いカマが俺に向けられている。
このまま突っ込めばカマにやられる!
俺は頭上で大きく刀を振りかぶる。
だが、斬り込まない。
少し振り下ろし、また大きく振りかぶる!
絶妙な距離を置いて注意を引くだけだ。
剣先をゆらゆらと揺らす。
カマキリは両腕を高く上げ、上半身を小刻みに振っている。
「来い! こっちだ!」
声を上げ、さらにカマキリの注意をひく。
こちらは攻撃が届かないギリギリの位置である!
狙い通り、カマキリは俺を狙って動き始める。
「――トウコっ!」
「あいあいさーっ! くらえっ! イモカマっ!」
そう言うとトウコが低い姿勢で飛び出す。
床を転がりながらショットガンの引き金を引く。
狙いはやわらかそうな腹部!
銃口が火を噴く。
吐き出された散弾がカマキリの腹を撃ち抜く。
体液がまき散らされ、壁を染める。
「……!」
カマキリが声なき声をあげる。
これは致命傷!
カマキリが塵に変わる。
俺は天井から飛び降りつつ、空中で魔石をつかみ取る。
そして宣言する。
「よおっし! 後続なし! 戦闘終了!」
「おつかれさまですー」
「やりぃー! カマキリちょろいっス!」
「気を抜きすぎるなよ!」
決してカマキリがチョロいわけではない。
一対一で対峙するとわかる。
長い手足から繰り出される攻撃はかなり鋭い。
間合いが広いせいで、斬り込む隙が見つけられないのだ。
壁を這って登ってくるし、空まで飛ぶ。
機動力も侮れない。
しかし弱点は明確。耐久力のなさだ。
首、手足の付け根、柔らかい腹部。
胸もおそらく脆弱だろう。
こちらの攻撃を入れられれば、簡単に倒せる。
強いだけの相手なんて弱いのだ。
名言じみている!
順調に十七階層の探索を続ける。
「この部屋にモンスターさんはいないみたいです」
「よし、罠をチェックして……」
判断分身にローラーで罠をチェックさせる。
その間は部屋の外で待機。
室内全体に矢が来るようなケースを警戒してのことだ。
ドアの罠みたいに、複数の矢が来る場合もあるからな。
「罠はないようだな。ん……?」
部屋に踏み込む。
奥に見えたのは――
「モノリスがあるっス!」
「あ、ほんとですねー!」
そこには黒々としたモノリスが突っ立っていた。
カマキリの複眼の奥に黒目はなく、反射の都合で黒く見える。これを偽瞳孔という。




