クローゼットダンジョン・第十七階層!
安全な階段で休憩しつつ、自律分身を十七階層へと送り出す。
【意識共有】の効果で、離れている自律分身の感情がある程度わかる。
何度か緊張感や興奮を感じたので、おそらく戦闘したはずだ。
痛みや恐怖のような感覚は来ていないので、苦戦はしていないのだろう。
意識をそらすようにすれば、【意識共有】の遠隔フィードバックは弱まる。
自分が戦闘しているときに集中が乱れる心配はなさそうだ。
かなり前から自律が死亡した場合のフィードバックも受け取りを保留できるようになっているし、使い慣れてきたように思う。
しばらくして自律分身が戻ってきた。
俺は片手をあげ、自律分身に声をかける。
「おつかれ俺」
「おう。近場を偵察してきたぞ。十六階層とあまり変わりはない」
「罠もあったんスか?」
「あったぞ。やはり矢の罠だ。トゲの罠はなかった」
「モンスターさんはどうでしたか?」
「同じだと思うが、まだクモは見ていない。カマキリとは戦った。あえて刀で戦ってみたんだけど、かなり強いな」
分銅などで距離を取れば倒せるとわかっているカマキリに、あえて接近戦を挑む。
これは練習のためだ。
自律分身は本当の意味で死ぬことがない。
だから命を賭けた戦いもできる。
生身では試せない戦い方もできるってわけ。
「どんな感じだった?」
「思ったよりも腕が長くて間合いが広い。避けるなら少し余裕を持っておかないとダメだ。前脚は硬いから斬りつけても弾かれる。まるで鎧だな! 関節部分なら斬れるけど、少し狙うのは難しい」
自律分身は戦闘を思い出しているのか、少し楽しそうである。
「へえ。関節が弱点か。詳しいところは【意識共有】で読ませてもらうか」と俺。
「じゃあ、解除してくれ」と自律分身。
時間もちょうどいいだろう。
「おう。ではお疲れ、俺!」
「おう!」
「おつかれさまですー!」
「二号おつー」
自律分身を消す。
――意識が流れ込んでくる。
十六階層での出来事は聞いた通りだ。
カマキリとの初遭遇では、見た目への嫌悪感や驚きを感じている。
カマキリとの初遭遇の記憶か。
少し読み込んでみよう――
角を曲がる。
そのとき視線の端で何かが動く。
とっさに刀を構えるが、強い力で刀が弾き飛ばされる。
敵か!?
とっさに背後へ跳び、クナイを構える。
現れたのは大きなカマキリだ。色は茶。
壁を伝って、床へと降りてくる。
さっきの一撃は壁面から……上からだったようだ。
カマのような腕をそろえ、頭のあたりで構えている。
手の中のクナイでは心もとない。
懐のワイヤー分銅を取り出したいが……。
間合いを取ろうとすると距離を詰めてくる。
武器を持ち変えるスキがない!
クナイを投擲。
カマキリがそれを前脚で防ぐ。
その隙に素早くワイヤー分銅を取り出す。
――ふむ。
記憶の再生を止める。
聞いた話より苦戦しているようだな。
カマキリから、かなりの威圧感をおぼえる。
その後は分銅で戦って、首を落としている。
新しい【意識共有】はなかなかいいぞ!
受け取る内容が前よりも濃い!
より細かな雰囲気が伝わってくる。
その場で戦っているかのようだ。
これまではもっとダイジェスト感があった。
古い記憶を思い出すような曖昧さがあったんだよね。
まるでついさっきの出来事のように鮮明に感じ取れる。
解像度が上がったとでも言うか。
より濃い記憶が体験できるのだ。
だから何だって?
これまでとは全然違う!
違うのは戦闘の感覚だ。
細かな動き、体の感覚。
距離や間合い、相手の動き。
よりリアルに、より細かくわかる。
敵を想定したリアルなシャドーボクシングみたいなものだ。
あるいはバーチャル訓練。
次に同じ敵と戦えば、より有利に戦える。
長い記憶は短い要約のようにも受け取れる。
順を追って読まなくても、全体の印象がわかるのだ。
早回しで要点だけ読み取るようなこともできる。
時間がないときは、さっと読み取れる。
戦闘の記憶を読むとき、不安や緊張を感じたりもする。
でも、とくにデメリットではない。
あくまでも記憶の受け取りであり、今現在の体験ではないと認識できるからだ。
床を転がったりして多少の痛みを感じるシーンもあったが、痛みの強弱は制御できる。
受け取りたくない情報はボカしてしまえばいい。
意図して受け取ろうとすれば強い痛みも感じられる。
まあ、そんな趣味はない。
痛みじゃなければ意味があるかもな。
そのまま記憶を読んでいく。
十七階層の記憶だ――カマキリと戦っている。
細かく読まず、ぎゅっと要約するように読み取っていく。
俺自身の理解力が落ちるわけではない。時短だね!
要約された記憶――
通路の角を曲がる。
不意打ちを想定して、充分に注意する。
やはりいた! カマキリだ!
一撃目をかわして、戦闘に突入する。
今回は刀がある。カマの一撃をかわし、斬り込む。
――刀を使った戦いの経験を受け取っていく。
なるほどなるほど!
カマキリの攻撃パターンや間合いがよくわかる。
次に戦うときは、慣れたモンスターのように扱えるだろう。
これなら、刀で戦ってもいい。
無理することはないが、選択肢としてはアリだね!




