銃は矢より強し! 盾も矢より強し!
矢の罠は何度か作動させると動かなくなった。
タマ切れ――矢が尽きたのかな?
無制限に作動するわけではないらしい。
通路を進んでいるとゴブリンが四匹現れた。
これはなんなく倒せた。
これまでの階層より強いが、ボスゴブリンに比べると弱い。
ま、しょせんゴブリンだ。
いまさら苦戦などしない。
少し進むと壁に小さな穴があった。
穴の位置は、矢が飛んでくるのと同じくらいの高さだ。
「たぶん、ここから矢が飛び出すんだな!」
「へぇー。中はどうなって――うえっ!?」
穴をのぞき込もうとするトウコ。
その首根っこを掴んで止める。
「危ないだろ!」
「あ、そーっスね!」
危なっかしいったらないよ!
学習してくれ、学習!
「リン。【魔力知覚】でなにかわかるか?」
「うーん……反応ありません」
スイッチにも、矢の発射穴にも魔力の反応はないようだ。
【魔力知覚】で楽に見つけられるかと思ったんだが、残念。
「ふむ。罠は【魔力知覚】には引っかからないか……」
「残念ですー。でも、がんばって目で探します!」
むん、とリンがやる気のある表情を作る。
その意気だ。
罠探しは地味な作業だ。
スイッチになっている床板は少し高さが違ったりする。
ちゃんと気をつければ見つけられないこともない。
暗い洞窟で、揺れる松明の明かりの元では少し難しいんだけどね。
トウコが壁を指差す。
「こっちにも壁穴があったっス! てことはこっちにスイッチが――あるっ!」
「おお、ナイス!」
穴の射線上に、起動スイッチがみつかった。
「そうか! 先に壁穴を探すのも手だな!」
「トウコちゃん、エラいねっ!」
「へへー! じゃ、今度こそ迎撃してやるっス!」
「お、まだやるのか」と自律分身。
トウコが鼻息荒く銃を構えて罠を踏む。
飛んでくる弾丸を弾丸で迎撃するアレ。
そんな技は伝説のガンマンにしかできない。
というか、漫画じゃあるまいし、ムリだ。
相手が矢だとしても相当に難しい。
トウコは罠を踏んでは射撃している。
真正面から矢を迎え撃つと危険なので、少し軸をずらしている。
その分、弾丸の射線は斜めになる。
矢と弾丸の射線が交わるのは一瞬。
撃ち落とすタイミングはシビアだ。
結局、拳銃の弾倉が空になるまで撃っても成功しなかった。
トウコが頭をかきむしる。
「あーっ! ムズいっス!」
「むきにならず、ほどほどにしておけよ!」
「んじゃーラストっ! こいつで勝負っス!」
トウコは拳銃からソードオフショットガンに持ち替える。
ほう……?
トウコはホームラン予告をするバッターのように、銃を前に向けて腕を伸ばしている。
銃身のブレない綺麗なフォームだ。
「ていっ」
罠を踏み、矢が放たれる。
銃声。
壁に散弾が当たって火花を散らせる。
矢は――?
トウコがガッツポーズを決める。
「うしっ! 成功っス!」
矢は見事に撃ち落とされている!
「やったねトウコちゃん!」
「おおっ! ショットガンとはいえ、すごいな」と俺。
「これが毎回できるなら、実用性があるかもな」と自律分身。
ショットガンの散弾はバラけるから、必ずしも当たるとは限らない。
「んじゃもう一回っ! 銃パリイっス!」
ところが、できてしまった。
百発百中とはいかないが、まあまあ成功する。
銃弾は小さいが、矢はそれなりに大きい。
タイミングを合わせて迎撃すれば、当たるらしい。
「マジか……」
「ははっ! 銃は矢より強しっス!」
そりゃそうだけど!
俺はリンを促す。
「じゃあ次はリンだな」
「えっ? 私は無理ですよー!?」
「撃ち落とすんじゃなくて、事前に盾を構えてスイッチを踏むんだ。射線から体はズラして手だけ出す感じで」
「うーん。それならできるかなぁ?」
リンはおっかなびっくり罠を踏む。
「きゃっ!?」
突き出した盾に矢が当たり、弾かれる。
「お、弾いたな! ちゃんと防げるようだ!」と俺。
「角度がないと貫通するかもしれないぞ」と自律分身。
「あっ!? でも少し傷がついちゃいましたー!」
「あとで直すよ! 角度によって貫通しないか試したいんだけど、貸してもらっていいか?」
「はいっ」
リンから受け取った盾を分身に持たせ、正面から矢を受ける。
ほぼ垂直に矢が命中。それでも盾は抜かれない。
何度か試したが、盾が貫通されることはなかった。
いいぞ!
思ったより盾の強度は高い。
矢じりのない木の矢なら防げる!
自律分身が盾に当たって落ちた矢を急いで拾う。
だがやはり、すぐに塵に変わってしまう。
「何してるんスか? 二号」
「いや、傷んでない矢なら回収できるかと思ってな」と自律分身。
盾で弾いた矢はほぼ無傷で落ちている。
それでも拾えない。
「まあ、俺のダンジョンだし……。基本的にアイテムの収集はできないんだろ」と俺。
「まあ、盾の強度が試せたからよしとするか!」と自律分身。
リンが誇らしげな顔で盾を褒める。
「はい! ちゃんと防いでくれます!」
トウコが手をあげる。
「じゃあじゃあ、銃で撃ったらどうっスかね?」
「さすがに貫通すると思うが……」
ちらりとリンの様子をうかがう。
ああ、やはり。ちょっと涙目になっている。
「それはちょっと……ダメです!」
さんざん矢を受けたので、盾はもうボロボロ。
これ以上は酷かもしれない。
「ああ。試すのはやめておこう」
すぐに修理できるが、直ればいいって話でもない。
リンは装備品を大事にしている。
耐久テストは別の機会に試せばいい。
洞窟や迷宮で銃を撃つと跳弾が心配だし、草原でやろう。
傷んだ盾を【忍具作成】で修理する。
「よし、修理完了!」
「ありがとうございまーす! 大事に使いますねっ」
リンが盾を大切そうに抱える。
俺は皆に声をかける。
「さあ、先へ進もうか」
通路の先が見えてきた。
どうやら、広い部屋になっているようだ!
ご意見ご感想お気軽に! 「いいね」も励みになります!




