矢切はバッティングセンターで!?
迷宮階層は親切である。
松明が掲げられていて充分に明るい。
通路の床の一部がぼんやり光っている。
これは蓄光塗料の印だな。
自律分身が床を指差す。
「ここにさっき俺が踏んだ罠がある。気をつけ――」
「へー。もう解除済っスか?」
トウコが罠に近寄っていく。
俺は言う。
「いや、そうとは限らないだろ!?」
「うえっ?」
トウコが罠を踏む。
「おいっ!?」
かちり、と作動音。
そして風を切る音。
通路の奥からなにかが飛んでくる!
矢だ!
「うえっ!?」
トウコが驚きながらも身をかわす。
「トウコちゃん! 大丈夫!?」
「セーフっス! ふぃー」
トウコが汗をぬぐう。
自律分身がやや語気荒く言う。
「だから気をつけろって言っただろ! 見えてる罠を踏むな!」
「いやー。もう動かないと思ったんスよ。気をつけるっス!」
前にあったトゲの罠は一度踏むとしばらく動かない。
しかし、この罠は何度も作動するらしい……。
俺は言う。
「気持ちはわかるが、もっと慎重にな。あまり心配させるんじゃない」
「へへ。あざっス!」
矢はスイッチの位置に向けて飛ぶようだ。
トウコ以外は壁際にいたので、射線に入っていない。
俺は言う。
「この罠が何度でも動くのか確認しておきたい。みんな壁際に寄ってくれ」
自律分身が補足する。
「毎回同じコースで飛んでくるとも限らないから、避ける準備はしておけよ!」
「りょ!」
「は、はい。盾を構えておきまーす!」
リンが盾トンファーを構える。
これは前にも使った品だ。
ポリカーボネート製で透明。
左右の手に持つ二対の片手盾である。
銃弾を防げるような強度はないが、矢なら貫通せず防げるはず。
あとで矢の威力に盾が耐えられるか確認しなきゃな。
「じゃ、踏むぞ!」
俺は掛け声とともに罠のスイッチを踏む。
作動音。風切り音。
そして矢が飛んでくる。
位置は先ほどと同じ!
およそ人間の胴体くらいの高さ。
びゅん、と目の前を矢が通り過ぎていく。
ふむ。何度も作動するようだ。
「もう一回!」
罠を踏む。
矢が飛んでくる。
ただ罠の動きを見るだけじゃつまらない。
せっかくだから――
「ていっ!」
俺はタイミングを合わせ、刀を振る。
だが失敗。空振りだ。
まあ、矢を斬り落とすのは難しいからね。
矢切なんて、普通は出来ないよな!
「……もう一回!」
罠を踏んでから矢が飛んでくるタイミングは毎回同じ。
コースも同じ。
意識を集中して――来た!
「ファストスラッシュ!」
パシィッ!
軽快な音と手ごたえ!
刀が矢を捉え、見事に切り落とした!
「おー! ナイスっス!」
「す、すごいですね!」
トウコが親指をぐっと立て、リンはパチパチと拍手する。
自律分身が床に転がった矢の残骸を拾い上げる。
「木製の矢だな。矢じりはないけど、先端が鋭く尖っている」
「防具のないところに当たれば大ケガをしそうだな」と俺。
「おっと、消えちまった」と自律分身。
矢は塵になって消える。
拾い集めることはできないようだ。
「なんとなくやってみたが、案外斬れるものだな」と俺。
「俺もやってみたくなったぞ!」と自律分身。
「じゃ、交代な」と俺。
自律分身は三回目で成功させた。
スキルなしでもいけるようだ!
さすが俺! 自律自賛!
トウコが手をあげてぴょんぴょんと跳ねる。
「じゃあ次はあたしっ! アレっス! 正面から撃ち落とすやつをやるっス!」
マンガでよくある、銃弾と銃弾をぶつけるアレ!
「アレをやる気か!?」と自律分身。
「それはさすがに無理だろ!?」と俺。
俺たちは罠を楽しんだ。
なにしてんだコレ!?




