クローゼットダンジョン・第十六階層!
自律分身が偵察結果を語る。
まず地形。
俺のダンジョンでは、五階層ごとに交互に地形が変わる。
十五階層までの地形は洞窟だった。
十六階層の地形は迷宮風になっている。
人工的な通路と部屋だ。
そして罠がある。
床のスイッチを踏むと矢が飛んでくるタイプ。
前にあったトゲの罠は見かけなかったそうだ。
まだ入り口しか探索していないからな。
今後、出てくるかもしれん。
自律分身が言う。
「通路の角を曲がったところで、頭上から攻撃を受けたんだ。とっさに防いだけど、刀が手から離れてな」
「だ、大丈夫だったんですよね!?」
リンの言葉に自律分身がうなずく。
「ああ。すぐに距離を取ったから大丈夫。で、襲ってきたのは大きなカマキリだった。人間くらいのデカさだ。ちょっと気持ち悪いから覚悟しておけよ」
「うう……また虫さんなんですねー」
リンが青ざめる。
コウモリには慣れたけど、クモはまだちょっとキモい。
デカいカマキリなぁ……。
「で、近づきたくなかったから、距離を取って鎖分銅で戦った。首にワイヤーを絡めて、引っ張ったらプチっと首が取れた」
「必殺っスね!」
カマキリは首が取れやすい。
わかりやすい弱点があってよかった。
「カマキリといえば、やっぱりカマで攻撃してくるのか?」
「ああ。かなり素早い。それに前腕はかなり硬い。分銅をぶつけても効いた様子はなかった。見た目は思ったよりトゲトゲしていたな」
リンとトウコが首をかしげる。
「とげとげ?」
「シャキーンってなってないんスか?」
「刃物みたいに鋭いかというとちょっと違うな。挟んで捕まえる感じに見えたぞ」と自律分身。
「ふーむ。リアル寄りの姿って感じか……」
マンガやゲームだと前腕は鋭い刃物のように描かれることがある。
ここにいるカマキリの前腕は切断するより掴むものなんだろう。
自律分身が言う。
「つかまれたら無事じゃすまないだろう。初手をかわせなかったらヤバかったと思う」
「二号の首がもげてたかもっス!」
リンが涙目でトウコの肩を掴んでゆさぶる。
「やめてよトウコちゃん! 怖いよー」
「あー。ごめんっス!」
俺は自律分身に聞く。
「上から攻撃されたって言ってたよな? どういうことだ?」
「通路の壁にへばりついてたんだよ。つまり、壁や天井を移動してくるってことだ!」
「おお……俺と同じような壁使いか!」
「クモもそうだが、虫だからな……」と自律分身。
「ちなみに、飛びそうか?」と俺。
「飛ぶ姿は見なかったが、翅はあったな」と自律分身。
ううーむ。
壁を這い、空も飛ぶ。
動きが素早くて、攻撃の威力もありそう。
「それは厄介な……。このフロアは今まで以上に気をつけて進まなくちゃな!」と俺。
「ああ。ちなみに、この先は四人で進むか? それともいったん俺を解除しておくか?」と自律分身。
自律の言葉に、俺は少し考える。
解除してフィードバックを受ければ、俺自身が戦いやすくなる。
しかし、まだ【自律分身の術】の効果時間は残っている。
疲労も負傷もない。
「続行でいこう! 先頭を任せたい!」と俺。
「承知したぜ!」と自律分身。
トウコが伸びをする。
「うー! やっと出発っスね! 待ちくたびれたっス!」
「き、気をつけて進みましょうねー」
リンは少し不安げだ。
「先頭は自律。次は俺。その後ろにリンとトウコの順に進もう」
「はいっ」
「りょ!」
作戦としては……。
「カマキリがいた場合、遠距離攻撃で倒すようにしたい。俺と自律がカマキリを近づかせないようにする」
「ああ。なるべく近づかないほうがいいだろうな。俺は分銅で戦う」
実際に戦った自律分身の言うことを信じよう。
斬り合いの距離に踏み込むことは避ける。
はじめての階層だ。
慎重に慎重を重ねていく!
「というわけで、今回も罠チェックしながらいくぞ!」と俺。
「地味ローラー作戦っスね!」
自律分身の前に判断分身を出す。
用意してきた罠探しローラーを持たせ、床を探りながら先行する。
自律分身が言う。
「俺が踏んだ時は通路の先から矢が飛んできた。毎回そうとは限らないから気をつけてくれ」
通路の先から矢が飛んでくる……?
あ、いかんな。
「……ちょっと待て。手順を変えよう!」と俺。
俺が足を止めると、トウコが口をとがらせる。
「うえぇ? まだほとんど進んでないっスよ!?」
「前とは状況が違う。トゲの罠なら、ローラーでかたっぱしから起動していけばいい。トゲは下から出くるからな――」
俺の言葉を自律分身が引き取る。
「――今回の罠は矢だ。どこから飛んで来るかわからない。だから罠を起動させるのは危険なんだ。俺が気付くべきだったな。カマキリのことばかり考えてたわ。すまん」
自律分身が軽く頭を下げる。
リンが言う。
「いえっ! ゼンジさんたちが気づいてくれて助かりましたー!」
「なる! そういうことっスね!」
矢が飛んできたとして、避けられる保証がない。
起動することで、かえって危険になる。
今は一本道の通路だ。
前後左右、あるいは上下。どこから矢が飛んでくるかわからない。
見てから避ける……のを皆に求めるのは難しい。
「じゃあ分岐までは罠ローラーを使わずに進む。角まで行ったら、分身を先行させて罠チェックしよう」
「敵がいた場合は、元居た通路に引き込んで戦うのがいいだろう」と自律分身。
戦うとき、罠に気を取られたくない。
安全な場所、確認が済んだ場所で戦うということだ。
「リョーカイっス!」
「はい! いいと思います!」
こうして、探索が始まった。
一歩一歩、新しい場所へと突き進むこの感じ。
こういう緊張感も悪くないね!
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