仮住まいは地下シェルターで!
御庭が刀を鞘に納めて机に戻す。
「ところでクロウ君。ここの住み心地はどうかな?」
「ああ。かなり快適だ。俺のアパートよりずっといい」
俺、リン、トウコはこの拠点の地下で寝起きしている。
「ずっと住んでくれてもかまわない。でもやっぱり元の家がいいのかな?」
「思い入れもあるし、引っ越す気はない。工事が終わったら戻るよ」
俺の部屋とリンの部屋に防音工事を入れている。
ここに住むのは、それが終わるまでの間だけ。
仮住まいだ。
拠点の地下は核爆弾にも耐えられるシェルター構造になっている。
空き部屋もたくさんあって、その一部を借りているのだ。
なんと一人一部屋である!
バストイレ完備!
俺のアパートより広いくらいだ。
三部屋借りているのに、結局は俺の部屋に集まっている。
私物の類をダンジョンに入れてから転送門を移動させた。
こうすることで手ぶらで引っ越しできてしまった!
便利すぎるぜ、ダンジョンの移動!
これができるのは俺とリンだけ。
管理者権限を持っていないから、トウコのダンジョンはそのままだ。
冷蔵庫は物理的に運べるとはいえ、いちいち持ってくるのは面倒だ。
工事期間はさほど長くないから、放っておいても問題はない。
もし長引いたら日帰りで間引きしに行けばいいし。
ここでの生活も数日たつが、俺たちはほとんどダンジョンに入り浸っている。
まあ、いつも通りってことだ。
外が変わってもあまり影響はない。
どちらかといえば、便利になっている。
公儀隠密の拠点に直結しているから、すぐに訓練場や武器庫を使える。
資材も使い放題だし、頼んでおけば大抵のものが手に入る。
普通なら職場に住むなんてまっぴらだ。
その点、公儀隠密はホワイト組織だから問題なし。
深夜に呼び出されて仕事をさせられたりしない。
仮にそんな緊急事態が起きたなら、家にいたって対応する。
悪性ダンジョンに苦しめられる人がいるなら、時間なんて関係ない。
朝だろうが夜だろうが、すぐに駆け付けて対応するつもりだ。
「じゃ、俺は部屋に戻る。なにかあったら連絡してくれ」
「うん。足りないものがあったら手配するから、遠慮なく言って欲しい」
というわけで、俺は御庭の部屋を後にした。
公儀隠密の地下にある居住スペースへ移動する。
ここに俺たちの仮住まいがある。
スライドする自動ドアを開け、部屋に入る。
リンが駆け寄ってくる。
「おかえりなさい! どうでしたか?」
「報告は無事終わったよ。もうこの部屋には慣れたかな?」
「うーん。一人でいるとまだ少し落ち着かないですね。でもゼンジさんが戻ってきたので大丈夫です!」
「授業はどうだった?」
リンの大学はパンデミック禍のためオンライン授業になっている。
「家にいるときとほとんど変わりません。でもここのほうが静かでいいですねー」
「アパートの壁は薄いから、外の音が入るんだよな」
安普請である。
ゴミ収集車が来たりするとちょっとうるさい。
俺たちの要望で、公儀隠密が本格的な防音工事をしてくれている。
費用は度外視。普通に払ったら相当な高額になるだろう。
床にも防音を施すので、今後はシモダさんに怒られる機会も減るだろう。
外を気にせず、ダンジョン関係の会話もできる。
リンが動画配信を始めたことも理由の一つ。
撮影するだけならここを借りてもいい。
だけど、やっぱり自宅が一番だよね。
「トウコはまだスナバさんのところか?」
「はい。そろそろ帰ってくるはずです」
トウコの射撃を見て欲しいと、俺からスナバさんへ頼んでおいたのだ。
なにかやらかして怒られていないといいが……。
自動ドアが開く。
噂をすれば、うるさいのが帰って来たようだ。
「だたいまっス! お、店長も帰ってたんスねー!」
そのまま突撃してくるトウコ。
その頭を片手で受け止める。
「おかえり。訓練はどうだった?」
「へへーっ! 聞きたいっスか?」
聞いてるんだから、聞きたいに決まっているだろ!?
表情から察するに、悪い結果ではなさそうだ。
トウコがスナバさんの声マネをして言う。
「お前に教えることは何もない……って言われたっス!」
うーん。判断に迷うやつだな!
それ、怒られたりあきれられてたりしないか!?
誤字報告ありがとうございます!
なぜか【忍具作成】と【忍具収納】を間違えることが多い……。




