おかえりなすん!?
公儀隠密の拠点に戻ってきた。
さびれた寺の敷地を歩きながらオカダたちと談笑する。
ダンジョン攻略を通じて、距離感が縮まったように感じる。
オカダはもともと馴れ馴れしいヤツだったけど、コガさんとはほとんど話していなかった。
もともと普通の生活をしていた女性だ。
急に吸血鬼や忍者に慣れるわけないよな。
俺たちに対しても、どこか緊張していたんだろう。
オカダが言う。
「で、次はいつになるんだよゼンゾウ?」
「気が早いな! 見つかったら御庭から声がかかるだろ」
帰って来たばっかりだってのに、やる気ありすぎる!
コガさんが言う。
出発前と違って表情は明るい。
「じゃ、じゃあ次までの間にいろいろ教えてください! 前は訓練なんて嫌でしたけど……ゼンゾウさんとなら……」
「お? コガさんもやる気になったか! じゃあ今度……」
建物からリンが出てきた。
俺を見つけ、笑顔で手を振りながら走ってくる。
「おかえりなさー……い?」
リンははたと足を止め、表情を消す。
スンってなった!
おかえりなスンってなった!?
なんでだ!?
「ただい……ま?」
あ、コガさんか!?
親しげに話していたから?
いや……普通の会話だよ!?
遊びの約束をしてたわけでもないし! 仕事仕事!
うーむ。
なぜ俺は内心で、求められてもいない弁明をしているのか……。
オカダがコガさんの肩を叩く。
「んじゃコガちゃん。俺と先に行こっかー」
「え? は、はい」
オカダは俺に軽く片目をつぶると、そのまま建物へ入っていく。
おお! 配慮に感謝する!
リンは無言で二人を見送る。
睨みつけてはいないが、無表情なのでちょっと怖い。
「ただいまリン。わざわざ迎えにきてくれたのか?」
「……はい。お疲れ様でした。任務はどうでしたか?」
リンに表情が戻る。
ごく普通の柔らかい表情に戻っていく。
うーん。久しぶりにコミュ障っぷりを発揮したな。
これは怒っているとか責めているのとは違う。
不安や心配のようなものだ。
たぶん、本人は表情の変化に気づいていない。
いわばフリーズ状態なんだよな。
心配しなくたって浮気などしない。
コガさんに対してそんな気持ちは全くない。
リンを安心させてあげないといけないな。
「順調だったよ。この通りケガもない」
リンはほっとしたように胸に手を当てる。
「よかったー! 少し遅かったので、なにかあったのかと心配しちゃいました」
「オカダたちにとっては久しぶりの外だから、存分に息抜きしてもらったんだよ」
「そうですかー」
「ダンジョンには人型のモンスターがいてさ。頭が犬みたいになってるんだ。たいして強くないんだけど……」
そんな話をしながら建物へ歩いていく。
リンやトウコにコガさんの見極めについては話していない。
仲間を疑うようなことに関わらせたくないからだ。
それに、リンが一緒だったらいろいろヤバかったと思う。
今回の任務には目的がいろいろとあった。
一挙両得、一石二鳥でまとめて解決できたぜ!
サタケさんの治療。これはすぐに済んだ。
ダンジョン潰し。
これはオカダの希望である戦闘も含まれる。
ダンジョンを潰したので、被害が外へ広がる前に収めることができた。
そして、コガさんが公儀隠密メンバーにふさわしいかの見極め。
能力の危険性と、本人の資質の確認だ。
【庇護】を使ったのは意図的ではなく、力を制御できなかっただけ。
事故のようなものだ。
メンバーを害するつもりはなかったと判断できる。
戦力としても問題なく、任務の役に立つ。
そう御庭には報告するつもりだ。
リンが言う。
「お二人は強いんですか?」
「うん。まあ吸血鬼だし、ケガや死ぬ心配をしなくていいのはうれしいね」
「そう、ですか」
「でも二人とも戦いに夢中になりすぎる。少し心配な場面もあった。別々の方向につっこんでいったりしてな。次はリンも一緒に来て、カバーしてくれると助かる――」
リンが食い気味に答える。
「はいぜひ!」
リンの機嫌も直ったようだ。
「頼りにしているよ。んじゃ、御庭に報告しなきゃな!」
無事に帰って報告するまでが任務だからね!




